アシナシイモリ

アシナシイモリ：地中に潜む原始的な両生類

アシナシイモリは、両生類の中でも特異なグループであり、無足目（GymnophionaまたはApoda）に属します。その名の通り、四肢を持たない細長い体は、ミミズやヘビを彷彿とさせます。英語圏では、最初に記載された属であるCaecilian（盲目のもの）という名で広く知られています。

特徴

アシナシイモリは、地中生活に高度に適応した結果、以下のような独特な特徴を持っています。

形態

体型: 四肢と肢帯を欠き、細長い円筒状の体型をしています。体表には多くの環状の皮膚の襞（環帯）があり、ミミズによく似ています。環帯は、椎骨の末端と一致する一次環帯と、その間に位置する二次環帯に区別されます。
尾: 長い尾は持たず、総排出腔は体の末端近くに位置しています。
皮膚: 粘液腺が豊富で、常に湿った状態を保っています。多くの種では、皮骨鱗が存在します。これは、魚類から受け継いだ形質か、二次的に獲得した形質かは議論が分かれています。
目: 皮膚に覆われており、明暗を感知する程度の機能しか持っていません。
触手: 感覚器官として、引き込み可能な触手を持っています。これは、ヤコブソン器官（鋤鼻器）に匂いを運ぶ役割を果たします。
聴覚: 鼓膜を持たず、空気中の音は低い周波数（200Hz以下）しか聞き取れませんが、地面の振動には敏感です。
歯: 上顎に2列、下顎に1〜2列の牙状の歯があります。これは、捕らえた獲物を強力に保持するために役立ちます。
顎: 顎を閉じる際には、下顎挙筋による下顎の引き上げに加え、後下骨間筋が下顎骨の関節後突起を後下方に引き付け、頭長筋を収縮させることで、顎と頭蓋を屈曲させ、非常に強い力で顎を閉じることができます。
頭骨: 頭骨はほぼ完全に骨に覆われており、地中を掘り進むのに役立ちます。これは、原始的な特徴なのか、地中生活への適応によるものかは不明です。
椎骨: 椎骨は、軟骨を経て置換されるのではなく、脊索の周りに直接形成されます。これは、空椎亜綱との共通の特徴です。
肺: 多くの場合、左肺は退化しており、右肺が発達しています。例外的に、左右の肺が発達している種や、肺を持たない種も存在します。皮膚や口もガス交換に使われます。

生態

地中生活: 環帯の間の襞を収縮させて地中を移動します。湿った土壌、畑、森林の落葉層などに生息し、夜間には地表に出て餌を探すこともあります。
水生生活: 一部の種は、ヒレ状の胴体後部を使って水中で泳ぎます。水底の石や倒木の下に隠れて生活します。
防御: 外敵に襲われると、多くの種は皮膚から大量の粘液を分泌して逃れようとします。また、一部の種は毒液を分泌し、大型種は強力な噛みつきで防御します。アシナシイモリ科の Geotrypetes seraphini は、口から水弾を撃ち出すことが知られています。

繁殖

体内受精: 全ての種で体内受精が行われます。オスは、総排泄腔から陰茎状の交接器（phallodeum）を反転させて、メスの総排泄腔に挿入し、精子を渡します。
オスの生殖腺: オスでもミュラー管が退化せずに発達し、腺構造となります。これは、精子に栄養を与える役割があると考えられています。
卵生と胎生: 25%の種は卵生で、母親が抱卵して保護します。幼生期を過ごす種と、直接発生する種があります。幼生は外鰓と側線器官を持ちますが、変態すると失われます。75%の種は胎生で、母親の卵管内で幼生が卵黄を吸収した後、卵管上皮の分泌物を食べ成長します。抱卵する種では、生まれた子供が母親の表皮を食べて育つ例も知られています。

分布

アシナシイモリは、熱帯地域に広く分布しています。海を渡れないにもかかわらず、東南アジア、インド、中南米、マダガスカルを除く熱帯アフリカに分布していることから、パンゲア大陸が一体だった時代に起源を持つと考えられています。

下位分類

アシナシイモリは、多様なグループを含んでおり、多くの種がたった一つの標本からしか知られていません。以下に、原始的なものから順に主な科を紹介します。

Funcusvermis: 三畳紀の北米に生息していた絶滅群。平滑両生類との強い関係性を示しています。
エオカエキリア科 Eocaeiliaidae: ジュラ紀の北米に生息した絶滅群。短い四肢を持ち、既に空隙のない頭骨と触手を持っていました。
オアシナシイモリ科 Rhinatrematidae: 南米北部に分布する小型種。最も原始的な形質を持ち、頭骨に古い要素を残しています。
ヌメアシナシイモリ科 Ichthyophiidae: インド、中国南部、タイ、マレー半島に分布する中型種。原始的な特徴と分化した特徴を併せ持ちます。
ケララアシナシイモリ科 Uraeotyphlidae: インド南部に分布する小型種。ヌメアシナシイモリ科に似ていますが、より進歩したアシナシイモリ科との共通点も持ちます。
アフリカアシナシイモリ科 Scolecomorphidae: サハラ砂漠以南の熱帯アフリカに分布する中型種。頭骨の要素が失われ、下顎骨の関節後突起が発達しています。
アシナシイモリ科 Caeciliidae: 中南米、アフリカ、インド、セーシェル諸島に分布。小型種から大型種までを含み、派生的な特徴を持ちます。
ミズアシナシイモリ科 Typhlonectidae: 南米に分布する水生の大型種。最も派生的な特徴を持ち、水中生活に適応した形態をしています。

まとめ

アシナシイモリは、その独特な形態と生態から、両生類の進化を研究する上で非常に重要なグループです。地中に潜む彼らの生態や進化の謎を解き明かすことは、生物多様性の理解を深める上で不可欠と言えるでしょう。

参考文献

松井正文 『両生類の進化』 東京大学出版会、1996年、43-51頁、111-120頁、ISBN 4-13-060163-6。
* William E. Duellman,Linda Trueb『Biology of Amphibians』（Johns Hopkins Univ Pr）ISBN 0-8018-4780-X

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