アスヒカズラ属

アスヒカズラ属（Diphasiastrum）

アスヒカズラ属は、ヒカゲノカズラ科に属する小葉植物の一群で、特異な形態と生態を持っています。ここでは、アスヒカズラ属の形態、生態、分類、そして日本に分布する代表的な種について詳しく解説します。

形態

アスヒカズラ属の植物は、他の小葉植物と同様に、根、茎、葉の区別が明確です。根や茎は二次肥大成長を行わず、茎は不等二又分枝を繰り返しながら、地表または地中を匍匐する匍匐茎（根茎）と、直立または斜上する地上性の側枝を形成します。

葉の特徴

葉は小さく、栄養葉と胞子葉の二種類があります。多くの種では、茎に4列に並んだ葉を持ち、葉を含めた茎の幅は1〜5mmです。栄養葉は茎に沿って癒合し、四角形状の平たい枝を形成します。特徴的なのは、背側と腹側にそれぞれ1列の幅の狭い鱗片状の葉、側方に2列の幅の広い鱗片状の葉を持つことです。この3種類の異形葉を持つことが、アスヒカズラ属の共有派生形質となっています。

ただし、タカネヒカゲノカズラは例外で、葉は5列に並び、ほぼ同形です。

根の特徴

根は、茎の内部にある維管束外周の基本分裂組織から発生します。コスギラン属など他のヒカゲノカズラ科植物とは異なり、アスヒカズラ属では根は維管束に対して垂直に伸び、より直線的に根を生じます。しかし、表皮を突き破らずに一時的に留まる場合もあり、arrested root と呼ばれる状態となります。

根の頂端にはQC様領域があり、type I RAM と呼ばれる開放型根端分裂組織を持ちます。

生殖

アスヒカズラ属は、明瞭な胞子嚢穂を形成します。胞子嚢穂は柄を持ち、二又分枝します。胞子葉は胞子の分散のために特殊化しており、栄養葉に比べて幅広い形状をしています。胞子葉は胞子嚢を葉上につけ、胞子嚢の裂開後に枯れます。

胞子は網目状の装飾を持ちます。

配偶体

配偶体は地中性で、小さいニンジン状の円錐形をしています。この配偶体は Type II と呼ばれ、長さは8〜25mm、幅は2.5〜13mmです。配偶体は、配偶子嚢を持つ帽子状の部位、狭窄した頸部、細く伸びる基部の3領域からなります。地中性の配偶体は寿命が長く、辺縁部の環状の分裂組織により大きくなります。側糸を欠き、葉緑体を持たないため、無色から褐色です。

配偶体は雌雄同株で、造精器と造卵器の2種類の配偶子嚢が異なるクラスターを形成します。

生態

アスヒカズラ属は、シダ植物であり、配偶体世代と胞子体世代の単複相が世代交代を行う生活環を持ちます。

生育環境

基本的に貧栄養の環境を好みます。アスヒカズラは日当たりのよい野山や樹林下に生え、亜高山帯に生育することもあります。タカネヒカゲノカズラやチシマヒカゲノカズラは高山帯に生育します。

種によっては、「妖精の輪」を形成することが知られています。これは、中心から成長した匍匐する根茎が、外周部では盛んに成長し、前年に成長した部分の群落が枯れることで形成される現象です。

配偶体の生育環境

地中性であるため、配偶体の観察例は多くありません。配偶体は、乾燥し開けた林床で見つかることがあります。

分類

かつてはヒカゲノカズラ属に内包されていましたが、形態や分子系統解析の結果から、独立した属として認識されるようになりました。現在では、ヒカゲノカズラ科の中で、スギカズラ属や狭義のヒカゲノカズラ属と近縁であることが示されています。

日本に分布する主な種

アスヒカズラ (Diphasiastrum complanatum)
タカネヒカゲノカズラ (Diphasiastrum nikoense)
* チシマヒカゲノカズラ (Diphasiastrum alpinum)

これらの種は、それぞれ異なる環境に適応しており、高山帯から低山帯まで様々な場所で見られます。

雑種

アスヒカズラ属には、種間雑種が多数知られています。これらの雑種は、種分化や進化の過程を理解する上で重要な手がかりとなります。

アスヒカズラ属は、その特異な形態と生態、そして多様な種と雑種を通して、植物の世界の奥深さを示してくれる魅力的なグループです。

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