アッピウス・クラウディウス・プルケル (紀元前54年の執政官)

アッピウス・クラウディウス・プルケル：共和政ローマの貴族政治家

アッピウス・クラウディウス・プルケル（紀元前97年頃 - 紀元前49年/48年）は、共和政ローマの政務官であり、紀元前54年に執政官、紀元前50年に監察官を務めました。彼はパトリキ（貴族）であるクラウディウス氏族の出身で、その一族はローマ社会で名門として成長しました。

生い立ちと家族

プルケルの父は紀元前79年の執政官アッピウス・クラウディウス・プルケルであり、彼は長男として生まれました。兄弟には、紀元前56年に法務官を務めたガイウスと、プレブス（平民）に身分を変えて護民官となったプブリウス（プブリウス・クロディウス・プルケル）がいました。また、3人の姉妹はそれぞれ、クィントゥス・マルキウス・レクス、ルキウス・リキニウス・ルクッルス、クィントゥス・カエキリウス・メテッルス・ケレルの妻となりました。

政治経歴

初期の経歴

プルケルは紀元前75年に、アウルス・テレンティウス・ウァッロを権力乱用の罪で告発した人物として歴史に登場します。義兄弟ルクッルスの下でレガトゥス（副司令官）を務め、紀元前72年にはティグラネス2世に対し、ミトリダテス6世の引き渡しを要求する使節として派遣されました。紀元前63年には元老院議員および鳥占官として、カティリナの陰謀が露見する中で重要な役割を果たしました。

クルスス・ホノルム

紀元前61年、弟プブリウスがボナ・デア祭での冒涜行為で告訴された際、プルケルはギリシアから芸術作品を持ち帰っていましたが、按察官選挙には落選。しかし紀元前58年には法務官に当選しました。法務官時代には、弟プブリウスを支援し、キケロの追放解除に反対しました。紀元前56年にはサルディニア属州の総督を務め、ルッカでの三頭政治会議にも参加しています。

紀元前54年には執政官に就任しますが、この時期に多くの汚職事件に関与したとされています。コンマゲネ王の主張を支持するために賄賂を受け取った疑いや、前シリア属州総督ガビニウスの裁判において、彼の利益のために動いたことが知られています。また、次期執政官選挙を巡るスキャンダルでは、現役執政官として選挙協力の見返りを約束したことが暴露され、元老院で問題となりました。

キリキア総督

執政官任期後、プルケルはキリキア属州の総督となります。軍事的勝利を収めたものの、兵士の士気は低く、給与の遅延も問題となりました。後任のキケロは、プルケルの統治を厳しく批判し、違法な税金を課し、属州を破壊したと非難しました。また、プルケルが義理の息子であるブルトゥスを通じて、キリキアの住民に高利貸しを行わせていたことも問題視されました。

帰国後、凱旋式の実施を主張しますが、告訴され、最終的に無罪となります。

監察官と最期

紀元前50年には監察官に就任し、元老院議員の除名などを行いました。カエサルとポンペイウスの内戦が勃発するとポンペイウスを支持し、ギリシアの総督に任命されましたが、ファルサルスの戦いの前に病死しました。

人物像

プルケルは信心深い人物であり、エレウシスの神殿にプロピュライアを建設することを誓い、アテナイ人から彫像を建てられました。また、ローマの伝統宗教の熱心な信奉者であり、アウグル（鳥占官）としての職務を真剣に実行しました。農業にも関心を持ち、マルクス・テレンティウス・ウァロが『農業論』を彼に捧げています。キケロはプルケルを教養豊かな弁論家として評価する一方で、その政治手法には批判的な目を向けていました。

アッピウス・クラウディウス・プルケルは、共和政ローマ末期の激動の時代を生き、政治的な野心とスキャンダルに彩られた生涯を送った人物として、歴史に名を残しています。

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