アムダリヤ川

アムダリヤ川：中央アジアを貫く生命線とその歴史、そして危機

アムダリヤ川は、中央アジアを縦断する大河です。その全長は約2,500キロ[[メートル]]に及び、パミール高原に源を発し、かつてはアラル海に注いでいました。しかし、近年は河口部がほぼ干上がり、その存在感を失いつつあります。本稿では、アムダリヤ川とその流域の歴史、文化、そして現在直面する深刻な環境問題について詳述します。

多様な呼び名と神聖な存在

アムダリヤ川は、古来より様々な名前で呼ばれてきました。ペルシア語では「アムー・ダルヤー」（Āmū Daryā、海を意味するダルヤーとアム川を組み合わせた名称）、タジク語、ウズベク語、トルクメン語などでもそれぞれ独自の名称を持ちます。中国の文献には「嬀水」や「烏滸河」といった記述も残されています。ギリシャ語文献では「オクソス（Oxos）」、ソグド語では「ワフシュ」と呼ばれ、神聖視された大河でもありました。さらにアラビア語では「ジャイフーン川」の名でも知られています。このように、アムダリヤ川は古くから人々の生活に密着し、それぞれの文化圏で異なる名称が用いられてきたことがわかります。

パンジ川からアムダリヤ川へ：複雑な水系

アムダリヤ川の源流は、ヒンドゥークシュ山脈に発するワフジル川です。ワフジル川はオクスー川と合流し、ワハン川を経てパンジ川となります。パンジ川は「5つ」を意味し、パミール高原の氷河や万年雪から流れ出る4つの川（パミール川、グント川、バルタング川、ワンチ川）が合流することから名付けられました。

パンジ川はタジキスタンとアフガニスタンの国境地帯を流れ、キジルスー川、コクチャ川、そしてヴァフシュ川と合流した後、アムダリヤ川と名称を変えます。その後も、クンドゥーズ川、カフィルニガン川、スルハンダリヤ川、シェラバード川といった多くの支流を受け入れながら、西へと流れていきます。

アムダリヤ川の中流域では、トルクメニスタンのカラクム砂漠とウズベキスタンのスルハンダリヤ州の間を縫うように流れ、カラクーム運河、アム・ブハラ運河といった灌漑用水路が建設されています。かつてはザラフシャン川も合流していましたが、現在は干上がっています。

歴史と文明の舞台

アムダリヤ川は、数千年にわたって周辺地域の文明を育んできました。アラル海の南岸デルタ地帯では、4～5千年前から人が定住し農業が行われていた証拠が遺跡から発見されています。上流域にはトハーリスターン、中流域にはブハラ、下流域にはホラズムといった歴史的な地域が位置し、バダフシャーン地方ではラピスラズリが産出していました。

アムダリヤ川の流路は何度も変化し、その度に都市の位置も移転しました。例えば、かつてホラズム王国の首都として栄えたウルゲンチは、アムダリヤ川の流路変更によって衰退し、ヒヴァが新たな中心地となりました。アムダリヤ川は、遊牧民と農耕民の境界線、さらにはロシア帝国と大英帝国、共産圏と非共産圏の境界線としての役割も果たしました。

環境問題：アラル海の縮小と砂漠化

20世紀後半以降、アムダリヤ川流域では深刻な環境問題が発生しています。旧ソ連時代の「自然改造計画」の一環として建設されたカラクーム運河は、原始的な工法のため大量の水が無駄に失われ、塩害や砂漠化を招いています。アラル海の急速な縮小は、アムダリヤ川からの流入量の減少が主な原因であり、周辺地域の生態系に壊滅的な影響を与えています。

下流域のトゥガイと呼ばれる河畔林は、中央アジアの砂漠地帯における貴重な生物多様性の宝庫でしたが、灌漑による水不足と塩害の影響を受けています。絶滅危惧種のタシケントアカシカにとっても重要な生息地であることから、その保全が急務となっています。

自然保護区と今後の課題

アムダリヤ川流域には、いくつかの自然保護区が設けられていますが、環境問題の解決には依然として多くの課題が残されています。持続可能な水資源管理、灌漑技術の改善、環境保全への意識向上など、国際的な協力の下で取り組む必要があります。アムダリヤ川とアラル海の未来を守るためには、私たち一人ひとりの努力が不可欠です。

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