バダフシャーン

バダフシャーン：中央アジアの山岳地帯

バダフシャーンは、アフガニスタンとタジキスタンにまたがる中央アジアの山岳地帯であり、パミール高原の西部に位置しています。この地域は、アム川上流域のパンジ川両岸の山岳地帯を指し、アフガニスタンのバダフシャーン州とタジキスタンのゴルノ・バダフシャン自治州（山岳バダフシャン自治州）を含みます。

地理

バダフシャーンは、周囲を高い山々に囲まれた高原地帯であり、ヒンドゥークシュ山脈の支脈がそびえ立っています。パキスタン・カシミールとの間には、歴史的にワハーン回廊が交通路として利用されてきました。気候は高山気候に属し、標高と山脈の配置によって東西で異なります。西部は比較的降水量が多く、夏の気温も穏やかですが、東部は乾燥しており、気温も低めです。

旅行家や探検家は、バダフシャーン西部の快適な気候を記録に残しており、ムガル帝国の創始者バーブルは自身の著書『バーブル・ナーマ』でその美しい自然を賞賛しました。年間降水量は平均130mmから150mm程度ですが、標高2000mまでの地域は比較的雨量が多いです。冬季は4-5ヶ月と長く、高山地帯では6-7ヶ月にも及び、厳しい寒さに見舞われます。標高5500m以上の高地には万年雪が積もっています。

バダフシャーンの地形は、平坦な頂上部と石の多い斜面を持つ山塊で構成され、谷底には河川が流れています。峡谷の標高は1000mを超え、その間に農村が点在しています。アフガニスタンとタジキスタンの州境は、パンジ川によって隔てられています。ヒンドゥークシュ山脈の支脈とパンジ川の間には、シヴェ（シヴァ）やデュト・イ・イシュといった広大な平野が広がり、牧草地として利用されています。農耕に適した土地は少なく、大部分の地域の地表には花崗岩や片麻岩が露出していますが、クンドゥズ川両岸の河岸段丘であるダシュトでは、わずかな植物を利用した放牧が行われています。

古くからルビーやラピスラズリの産地として知られ、この地で採れる宝石は地名の語源と関連があると考えられています。また、鉄、硫黄、金、銀などの鉱脈も発見されており、河川では銅の鉱床も見つかっています。石綿（アスベスト）も特産品として知られ、かつてはヨーロッパに輸出され、遺体を包む布（サワン）に加工されていました。

民族

バダフシャーンにはタジク人、キルギス人、パミール人が居住しており、牧畜や農業を営んでいます。その他、少数のパシュトゥーン人、インド系の民族、アラブ人も暮らしています。パミール人の多くはイスマーイール派を信仰しており、タジキスタン側の地域では、イスマーイール派の指導者であるアーガー・ハーン財団によるNGO活動が活発に行われています。11世紀には詩人ナースィル・ホスローによってイスマーイール派が広められたとされ、バダフシャーンでは彼が精神的な指導者として崇拝されています。ファイザーバード南東のヤムガーン遺跡には、ナースィル・ホスローの墓が建てられています。イスマーイール派以外にも、スンナ派やシーア派が信仰されており、言語や習慣の中には太陽信仰やゾロアスター教の名残も見られます。

歴史

アム川とコクチャ川の合流地点付近には、インダス文明に属する遺跡が多数存在し、その一つであるショールトゥーガイ遺跡は、ラピスラズリなどの貴石の交易に関わっていたと考えられています。

アケメネス朝時代には、遊牧民族のスキタイ人がバダフシャーンに居住し、遊牧生活を送りながらも、土着のイラン系住民の文化やゾロアスター教を取り入れていました。アム川とコクチャ川の合流地点に建てられたアイ・ハヌム遺跡は、東方で最もギリシャ的な色彩を強く残すヘレニズム建築であり、マケドニア王国のアレクサンドロス3世によって建てられたと伝えられています。

交通の要衝に位置し、遊牧集団が集結するバダフシャーンは、エフタルの台頭を招きました。5世紀にはエフタルがサーサーン朝の王ペーローズ1世を破り、タリム盆地、ソグディアナ、ガンダーラに勢力を拡大しました。その後、サーサーン朝は西突厥と同盟してエフタルを破り、衰退したエフタルはバダフシャーンに退きました。唐の僧侶・玄奘がバダフシャーン近辺で会った遊牧民ヒマタラは、エフタルの末裔であると考えられています。

バダフシャーンは、高山によって外部から隔離された環境下にあり、長らく半独立の勢力が割拠していました。渓谷によって隔てられた空間に多くの小勢力が形成され、やがて緩やかな統一体へと変化していきました。ムガル帝国などの外部の国家は、東西を結ぶ交易路上に位置するバダフシャーンを支配下に置こうと試みました。1220年から1221年の間にはモンゴル帝国の攻撃を受け、13世紀末から14世紀初頭にかけてはチャガタイ・ハン国の支配下に置かれました。

マルコ・ポーロの『東方見聞録』には、ルビーとラピスラズリを産出し、アレクサンドロス3世とアケメネス朝の王女の間に生まれた子の一族が支配する「バラシアン」という土地が記されており、これがバダフシャーンを指すと考えられています。1368年にはティムールの攻撃を受け、1[[5世紀]]半ばにティムール朝のアブー・サイードに征服されるまで、アレクサンドロス3世の子孫を自称する王がバダフシャーンを支配していました。

中継貿易の拠点として繁栄していたバダフシャーンは、16世紀以降の海上交易の発展に伴い、国際経済における地位が低下しました。16世紀に中央アジアのウズベク国家に併合されますが、現地住民によって軍隊が追放され、再び旧王朝の子孫が統治しました。17世紀には再びウズベクに征服され、アレクサンドロス3世の子孫を自称するウズベクの指導者ヤール・ベクがファイザーバードで独立政権を樹立しました。1822年にはクンドゥーズの支配者ムラード・ベクがファイザーバードを占領し、ミールザー・カラーンにバダフシャーンの統治を命じました。ムラード・ベクの死後にミールザー・カラーンは独立し、一時はクンドゥーズを併合しますが、最終的にはアフガニスタンのバーラクザイ朝に圧迫されました。1889年にはバーラクザイ朝のアブドゥッラフマーン・ハーンによってアフガニスタンに併合され、1895年にロシアとイギリスの間で締結された協定によって、アム川がアフガニスタンとロシアの国境として定められ、政治的に分断された状態が現在まで続いています。

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