アメリカ大陸の発見

アメリカ大陸の「発見」：多角的な視点からの歴史

「アメリカ大陸の発見」という言葉は、しばしばクリストファー・コロンブスによる1492年の到達を指しますが、この大陸への到達はそれ以前にも、そしてその後も、様々な人々によってなされてきました。この歴史を、ヨーロッパ中心の視点だけでなく、先住民族、その他の文化圏の視点からも包括的に見ていきましょう。

先住民族による「発見」

アメリカ大陸に最初に到達したのは、ヨーロッパ人ではなく、先住民族の祖先であることは明らかです。しかし、いつ、どのようにして彼らがこの大陸に到達したのかは、まだ多くの謎に包まれています。

クローヴィス・ファースト仮説とその否定

かつては、約1万3000年前のクローヴィス文化がアメリカ大陸最古の人類の文化であり、最終氷期にベーリング地峡を渡ってやってきた人々が先住民の祖先であるとする説（クローヴィス・ファースト仮説）が有力でした。しかし、1970年代以降、南アメリカでクローヴィス文化よりも古い遺跡が次々と発見され、この説は否定されました。

ルジア・ウーマンと呼ばれる約1万1000年前の人骨や、約1万5000年前のモンテヴェルデ遺跡の発見は、人類が最終氷期の後期にはすでに南アメリカに定住していたことを示唆し、クローヴィス・ファースト仮説の時系列に矛盾が生じました。さらに、約4万年前の人類の痕跡が発見されたという研究結果も出ています。

現在では、クローヴィス文化以前にもアメリカ大陸に人類が到達していたことはほぼ確実視されていますが、最初の到達者がいつ、どのようにして大陸に渡ったのかは、依然として謎のままです。

最初の「発見者」の謎

ローレンタイド氷床が発達する以前に、すでにアメリカ大陸に人類が到達していた可能性や、ベーリング地峡を複数回にわたって渡った人々がいた可能性が指摘されています。移動ルートとしては、海路が有力視されており、太平洋沿岸部を船で移動したとする説が有力です。

シベリア・エスキモーによる「発見」

ベーリング海峡が水没した後、アメリカ大陸とシベリアは隔絶されましたが、シベリアとアラスカに住むエスキモーの間には、多くの文化的・遺伝的な共通点があります。これは、最終氷期以降も両地域の間で交流があったことを示唆しています。2015年には、シベリアとアラスカの交流を裏付ける遺跡が発見されており、この交流の存在が裏付けられました。

赤毛のエイリーク親子による「発見」説

10世紀頃、ヴァイキングの赤毛のエイリークがグリーンランドを発見し、その息子レイフ・エリクソンが現在のカナダのニューファンドランド島に到達したという記録が残っています。この到達は、サガ（伝説）に過ぎないとされていましたが、1960年にニューファンドランド島でヴァイキングの遺跡が発見され、この説が裏付けられる形となりました。

コロンブスによる「発見」

先住民やヴァイキングによる到達があった一方で、15世紀までヨーロッパの先進諸国はアメリカ大陸の存在を知りませんでした。クリストファー・コロンブスは、地球球体説に基づき、西方航路でアジアに到達できると考え、1492年にスペインの支援を受けて出航。カリブ海の島々へと到達しました。

この航海は、ヨーロッパ世界にとって「新世界」の発見であり、その後の植民地化の契機となりました。しかし、コロンブス自身は自分が到達した地をインドだと誤解しており、新大陸を発見したという認識はありませんでした。

「真の発見者」論争

「真の発見者」として名前が挙げられるのは、コロンブスだけではありません。アメリゴ・ヴェスプッチは、自身の探検結果をまとめた『新世界』で、アメリカ大陸がアジアとは異なる新大陸であることを指摘しました。地理学者のマルティン・ヴァルトゼーミュラーは、ヴェスプッチを新大陸の発見者とみなし、彼の名からアメリカと命名しました。

一方、最初にアメリカ大陸の本土に到達した人物についても議論があります。コロンブスは島にしか上陸せず、ジョン・カボットはカナダのどの地点に上陸したか不明です。ヴェスプッチは南米本土に到達したとされますが、その最初の航海の信憑性には疑問が残ります。コロンブス自身も、3度目の航海で南米大陸の一部に到達しましたが、上陸地点を本土とみなすかどうかには議論があります。これらの点から、誰が最初にアメリカ大陸本土に到達したのかは不明です。

コロンブスの評価

コロンブスは、アメリカ大陸の発見者として歴史に名を残していますが、彼の評価は賛否両論です。先住民はコロンブスの到達以前からアメリカ大陸に住んでいたため、彼を「発見者」と呼ぶことはヨーロッパ中心主義的であるという批判があります。また、コロンブスが先住民に対して行った虐殺や略奪といった行為も、彼の評価を大きく下げています。

現在では、「コロンブス・デー」を「先住民の日」に変更する国も多く、歴史を多角的に捉え直す動きが広がっています。

その他の発見説

ポリネシア人アメリカ大陸発見説

ポリネシア人がアメリカ大陸に到達していた可能性も指摘されています。ポリネシア人は優れた航海技術を持っており、地理的に近いアメリカ大陸へ到達することも可能だったと考えられています。サツマイモやニワトリの遺伝子調査から、ポリネシア人と南アメリカ大陸との接触があった可能性も示唆されていますが、決定的な証拠はまだ発見されていません。

バスク人アメリカ大陸発見説

バスク人は、14世紀頃からニューファンドランド島で漁をしていたとする説があります。彼らは漁場を秘密にしていたとされますが、16世紀以前の証拠は見つかっていません。

中国人アメリカ大陸発見説

明の武将である鄭和が1421年にアメリカ大陸を発見したとする説もあります。しかし、多くの専門家は、鄭和の艦隊は東南アジアや中東方面へ航海していたとして、この説を否定しています。

神話の中でのアメリカ大陸発見

ケルトの聖人ブレンダンやウェールズの王子マドックがアメリカ大陸に到達したとする伝説があります。これらは民話や宗教的な話に基づいており、歴史的な根拠はありません。

まとめ

「アメリカ大陸の発見」は、コロンブスによる到達だけではなく、先住民による最初の定住、ヴァイキングの到達、そしてその他の文化圏の人々の関与があった複雑な歴史です。この歴史を多角的に捉え、多様な視点から考察することで、より深く理解することができます。

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