アルファ磁気分光器

アルファ磁気分光器（AMS-02）とは

アルファ磁気分光器（Alpha Magnetic Spectrometer、AMS-02）は、国際[[宇宙ステーション]]（ISS）に搭載されている最先端の素粒子物理学実験装置です。宇宙空間に存在する宇宙線を精密に測定し、未知の物質や現象の解明を目指しています。特に、暗黒[[物質]]や反[[物質]]の性質を明らかにし、宇宙の構造や起源に関する理解を深めることを目的としています。

代表研究者はノーベル物理学者のサミュエル・ティンであり、世界16か国以上から500人以上の科学者と56の研究機関が参加する国際的な共同プロジェクトです。AMS-02の初期観測報告では、宇宙線の中から暗黒[[物質]]の証拠である可能性が指摘されましたが、他の天文現象である可能性も残されており、現在も観測と分析が続けられています。

AMS-02開発の経緯

AMSの企画は、マサチューセッツ工科大学のサミュエル・ティンによって提案されました。超伝導超大型加速器計画が中止された直後、1995年に提案が承認され、ティンが代表研究者に就任しました。

AMS-01（原型機）

AMSの原型となるAMS-01は、国際協力によって開発されました。1998年6月にスペースシャトル・ディスカバリー（STS-91）で打ち上げられ、反ヘリウムの発見はできませんでしたが、宇宙空間での検出器の動作を実証することに成功しました。このミッションは、スペースシャトルが宇宙ステーション「ミール」とドッキングする最後の飛行となりました。

AMS-02（本格機）

AMS-01の成功を受けて、ティンはすぐに本格的なAMS-02の製作に取り掛かりました。AMS-02は、国際[[宇宙ステーション]]（ISS）の外部トラスに取り付けられ、ISSの電力で稼働するように設計されています。当初は2005年に設置される予定でしたが、技術的な困難やスペースシャトル計画の変更により、打ち上げは大幅に遅れました。

最終的な組立試験は、スイスのジュネーブにあるCERN（欧州原子核研究機構）で行われ、粒子加速器による照射試験に成功しました。その後、オランダの欧州宇宙研究技術センターで熱真空試験などの各種試験を受けましたが、超伝導磁石の冷却に問題があることが判明したため、常伝導磁石に変更されました。これは、ISSでの運用期間を延長し、データ収集の感度を高めるための重要な決定でした。

計画の運営と打ち上げ

AMS-02の運用は、NASAのジョンソン[[宇宙センター]]にあるアルファ磁気分光器計画局が担当しています。ISSへの設置は、スペースシャトルSTS-134ミッションで行われ、ロボットアームを使ってISSのトラス構造上部に取り付けられました。

AMS-02の諸元

重量：6,717 - 6,731キログラム
消費電力：2,000 - 2,500W
データ処理速度：10Gbit/秒
地上へのデータ送信速度：2Mbit/秒
運用予定期間：10 - 18年

当初予定されていた超伝導磁石は、ニオブ-チタン合金コイル2巻で、1.8Kで磁束密度0.87テスラでしたが、熱的な問題と運用期間延長のため、AMS-01で使用された常伝導磁石に変更されました。

費用

AMS-02の計画費用は、当初3,300万ドルと見積もられていましたが、コロンビア号の事故や技術的な困難により、最終的に15億ドルまで膨れ上がりました。この巨額の費用は大きな批判を浴びましたが、最終的には計画が実行されました。

機器の設計

AMS-02は、複数の検出器で構成されています。これらの検出器は、通過する粒子の速度、電荷、質量などを測定し、宇宙線の組成を詳細に分析します。

遷移放射検出器（TRD）: 高エネルギー粒子の速度を測定
飛行時間計測器（ToF）: 低エネルギー粒子の速度を測定
星位置追跡器（Star TrackerとGPS）: 姿勢を測定
シリコン飛跡検出器（Silicon Tracker）: 荷電粒子の同位体を識別
常伝導磁石: 荷電粒子の軌道を湾曲させ種類を特定
非同時計数器（ACC）: 上下以外からの粒子を除去
Tracker Alignment System (TAS): シリコントラッカーの精度を安定
リングイメージ型チェレンコフ光検出器（RICH）: 高速粒子の速度を測定
電磁カロリーメーター（ECAL）: 粒子の種類を特定

AMS-02の科学的目標

AMS-02の主な科学的目標は、以下の通りです。

反[[物質]]の探索

ビッグバン理論では、宇宙誕生時に物質と同量の反[[物質]]が生成されたと考えられています。しかし、現在の宇宙では反[[物質]]がほとんど観測されていません。AMS-02は、反ヘリウム原子核などの反[[物質]]を探索し、物質と反[[物質]]の不均衡の謎を解明することを目指しています。

暗黒[[物質]]の探索

宇宙の質量の大部分を占める暗黒[[物質]]は、未だにその正体が解明されていません。AMS-02は、暗黒[[物質]]の有力候補であるニュートラリーノが衝突する際に発生する可能性のある粒子（陽電子、反陽子、ガンマ線など）を検出することで、暗黒[[物質]]の解明に貢献することを目指しています。

ストレンジレットの探索

ストレンジレットは、アップ、ダウン、ストレンジの3種類のクォークから構成される仮説上の粒子です。AMS-02は、ストレンジレットの存在を検証し、新たな物質形態の解明を目指しています。

宇宙線環境の研究

AMS-02は、宇宙線の種類や量を長期間にわたって測定します。このデータは、有人火星飛行の際の放射線対策や、宇宙線の起源解明に役立つと期待されています。

打ち上げ延期とスケジュール修正

AMS-02の打ち上げは、スペースシャトル計画の遅れにより、数年間延期されました。2003年のコロンビア号事故後、シャトル飛行回数が減らされ、AMS-02の打ち上げも危ぶまれましたが、最終的には2011年5月にスペースシャトルSTS-134によってISSに運ばれました。

関連項目

国際[[宇宙ステーション]]の研究と科学
PAMELA (同じ目的で打ち上げられたイタリアのミッション)
* 宇宙望遠鏡の一覧

参照文献

AMS Collaboration Homepage
AMS Homepage - CERN
AMS Homepage - ジョンソン[[宇宙センター]]
NASA AMS-02 Project Fact Sheet
An animated movie of the STS-134 mission showing the installation of AMS-02 (72MB)
Alpha Magnetic Spectrometer - image collection - AMS-02 on Facebook

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