アンガモスの海戦

アンガモスの海戦は、1879年 10月8日に南米の太平洋戦争中、ボリビア領アンガモス岬沖でペルー海軍とチリ海軍が激突した海戦です。この海戦でチリ艦隊は、ペルー艦隊の装甲艦「ワスカル」を拿捕し、制海権を完全に掌握する決定的な勝利を収めました。

背景

イキケの海戦での敗北により戦力差が拡大したペルー海軍は、チリ海軍との正面決戦を避け、通商破壊や沿岸砲撃といったゲリラ戦術にシフトしました。その中心となったのが、ミゲル・グラウ大佐率いる装甲艦「ワスカル」です。「ワスカル」は兵員300人を乗せた輸送船「リマック」を拿捕するなど、目覚ましい戦果を挙げました。チリ側にとって「ワスカル」は大きな脅威となり、上陸作戦を実行できない状況が続きました。

チリ海軍は幾度か「ワスカル」との交戦を試みましたが、ことごとく逃げられてしまい、有効打を与えることができませんでした。この責任を問われ、チリ海軍司令長官のフアン・ウィリアムズ少将は解任される事態となりました。

1879年9月20日、チリ海軍は占領地アントファガスタへの兵員輸送を計画し、2つの船団を派遣しました。第一戦隊は装甲艦「ブランコ・エンカラダ」と砲艦「コバドンガ」で輸送船「マチアス・コウジーニョ」を護衛。第二戦隊は装甲艦「アルミランテ・コクレーン」、コルベット「オイギンス」、輸送船「ロア」で構成されました。10月1日には、両戦隊に対し、アリカ港に停泊中のペルー艦隊攻撃命令が下されました。

同じ10月1日、装甲艦「ワスカル」、コルベット「ウニオン」、輸送船「リマック」からなるペルー艦隊はアリカを出港。チリ艦隊とすれ違うように南下し、イキケで「リマック」を分離した後、チリ沿岸を襲撃しました。またしても「ワスカル」の捕捉に失敗したチリ艦隊は、アントファガスタに第一戦隊、メヒリョネスに第二戦隊を配置し、ペルー艦隊の帰路を待ち伏せする作戦を立てました。2つの戦隊で挟撃するという周到な計画でした。

経過

10月7日深夜、アリカへ帰投中のグラウ少将は、アントファガスタを襲撃することを決意。「ワスカル」は湾内に侵入しましたが、反撃を受けることなく、翌8日午前3時に「ウニオン」と合流し北上を開始しました。

チリ第一戦隊はペルー艦隊を発見し追跡を開始。夜明けに両艦隊は接触しました。ペルー艦隊が南へ逃れようとしたため、チリ第一戦隊は速度を落とし、ペルー艦隊を北上させ、第二戦隊の待ち伏せ海域へと誘導しました。午前7時、第二戦隊もペルー艦隊と接触し、チリ艦隊は挟撃態勢を完成させました。ペルー艦隊の高速艦「ウニオン」は分離して離脱を図り、チリ艦隊の「オイギンス」と「ロア」が追跡しましたが、逃げ切られました。

単独で残った「ワスカル」は、午前9時25分からチリ第二戦隊の「コクレーン」と砲撃戦を開始。「コクレーン」は、「ワスカル」の射程外から攻撃するアウトレンジ戦法で優位に戦闘を進めました。「ワスカル」は主砲塔や舵機に次々と損害を受け、午前10時には司令塔に被弾し、グラウ少将が戦死。操舵輪も破壊され、一時降伏の意思を示しましたが、応急修理後、再び戦闘を継続しました。

午前10時22分、チリ第一戦隊の「ブランコ・エンカルダ」と「コバドンガ」も「ワスカル」に接近し砲撃を開始。「ワスカル」は右主砲や応急操舵設備などを破壊されました。「ワスカル」の次席指揮官エリアス・アギーレ少佐は「コクレーン」への衝角攻撃を指示しましたが失敗。「ワスカル」はアギーレ少佐も戦死し、午前10時55分に降伏の意思を示しました。「ワスカル」は拿捕を逃れるため、自沈を試みましたが、午前11時8分にチリ艦隊が乗り込み制圧しました。

結果

チリ海軍は戦術的な勝利に加え、「ワスカル」の拿捕により制海権を確立するという戦略的にも決定的な勝利を収めました。チリのシーレーンは安全となり、陸兵の海上輸送が自由に行えるようになりました。鹵獲された「ワスカル」はチリ海軍に編入されました。

一方、ペルー海軍は積極的な洋上活動能力を失い、沿岸防御に徹することとなりました。その後、水雷攻撃で砲艦「コバドンガ」と輸送船「ロア」を沈めるなどの戦果はあったものの、1879年11月18日には砲艦「ピルコマヨ」が拿捕され、1880年2月～6月のアリカの戦いではモニター艦「マンコ・カパック」が自沈、首都リマ攻防戦では海兵隊が全滅。リマ陥落時に残存艦艇は全て自沈し、ペルー海軍は事実上壊滅しました。

アンガモスの海戦が発生した1879年 10月8日は、ペルー海軍の創立記念日（1821年 10月8日）と同じ日でした。現在、10月8日は「アンガモス海戦記念日」としてペルーの祝日となっています。

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