アンゲリカ・カウフマン (画家)

アンジェリカ・カウフマン：新古典主義の輝ける女性画家

マリア・アンナ・アンゲリカ・カタリーナ・カウフマン（1741年10月30日 - 1807年11月5日）は、スイス出身のオーストリア人画家であり、新古典主義を代表する一人です。彼女は、その卓越した才能と国際的な活躍で、18世紀の美術界に大きな足跡を残しました。

生い立ちと才能の開花

カウフマンは、スイスのクールで生まれましたが、幼少期はオーストリアのシュヴァルツェンベルクで過ごしました。父親のヨーゼフ・ヨーハン・カウフマンは貧しいながらも熟練した画家で、娘に絵画の基礎を教えました。母親のクレオフェア・ルッツからは複数の言語を学び、アンジェリカは幼い頃から読書、音楽、そして絵画の才能を発揮しました。特に絵画においては、12歳で聖職者や貴族のモデルを務めるほどの名声を得ました。

1754年、父親とともにミラノへ渡り、その後、イタリア各地を長期間にわたり旅行しました。1763年にはローマを訪れ、その才能は各地で歓迎されました。特に、ヴェネツィア滞在中には、ドイツ大使の妻ウェントワース夫人に招かれ、ロンドンへ同行することになります。

ロンドンでの成功と人間関係

ロンドンでは、カウフマンはデヴィッド・ギャリックの肖像画を手掛け、その作品は大きな注目を集めました。ウェントワース夫人の紹介で社交界にも進出し、王族からも好意的に迎えられました。サー・ジョシュア・レノルズとは親友となり、互いの肖像画を描き合うなど親交を深めました。しかし、1767年には、スウェーデンの伯爵と偽った冒険家に騙され、秘密結婚を強要されるという困難に見舞われましたが、レノルズの尽力により窮地を脱しました。

カウフマンはロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの創立メンバーの一人となり、1769年の最初のカタログには「R.A.（ロイヤル・アカデミー）」と名前が記されました。彼女はアカデミーに『ヘクトルとアンドロマケーの会見』などの古典的絵画を寄贈し、歴史画の分野で才能を発揮しました。1775年には、同僚のナサニエル・ホーンが風刺画で彼女とレノルズの友情を批判しましたが、カウフマンの芸術的才能に対する評価は揺るぎませんでした。

大陸への帰還と晩年

カウフマンは、1769年から1782年まで毎年ロイヤル・アカデミーに出展し続けましたが、イングランドの歴史画への関心の低さに失望し、大陸への帰還を決意します。その後、最初の夫の死後、1781年にヴェネツィアの画家アントニオ・ズッキと再婚し、ローマに移住しました。ローマでは、ゲーテと親交を深め、彼の『イタリア紀行』にもカウフマンについての記述があります。夫や父親の死後も、カウフマンはアカデミーへの寄贈を続け、1807年にローマで亡くなりました。彼女の葬儀は、アントニオ・カノーヴァの指揮により盛大に執り行われ、その功績が称えられました。

作品の特徴と評価

カウフマンの作品は、優美な才能と確かな技術に支えられていますが、人物の表情や多様性に欠けるとの批判もありました。また、当時の女性画家が男性モデルを使うことが許されなかったため、描かれた男性像が女性的に見えるという指摘もありました。しかし、彼女の色彩感覚は鮮やかで、多くの人々を魅了しました。彼女の作品は、ハンプトン・コート宮殿、ナショナル・ポートレート・ギャラリー、エルミタージュ美術館など、世界各地の美術館に所蔵されています。また、彼女のデザインから制作された版画は、収集家の間で今でも人気があります。

後世への影響

カウフマンは、その芸術的才能だけでなく、女性が芸術の世界で活躍するための道を切り開いた先駆者としても高く評価されています。彼女の肖像は旧100オーストリア・シリング紙幣にも使用され、彼女が育ったシュヴァルツェンベルクには、彼女の名を冠したコンサートホールが存在します。

チャールズ・ウィルソン・ピールは、娘に「アンジェリカ・カウフマン・ピール」と名付け、彼女の芸術的影響を物語っています。ジョヴァンニ・デ・ロッシによる伝記や、レオン・ド・ヴァイイによる恋愛小説、リッチモンド・リッチー夫人による小説など、彼女を題材とした作品も多く存在します。

カウフマンの作品が展示されている主な美術館

ハンプトン・コート宮殿
ナショナル・ポートレート・ギャラリー
エルミタージュ美術館
アルテ・ピナコテーク
* ウフィツィ美術館

カウフマンの生涯は、才能ある女性が社会の制約と闘いながら、自らの道を切り開いていく物語です。彼女の作品は、今なお多くの人々に感動を与え続けています。

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