アンティポロ

アンティポロ：歴史と信仰が息づく巡礼の地

アンティポロ（Antipolo）は、フィリピンのルソン島にあるカラバルソン地方に位置し、リサール州の州都です。シエラ・マードレ山脈の中腹に広がる高原都市で、豊かな自然と歴史的な建造物が魅力です。

名称の由来

アンティポロの名前は、この地域に多く見られる「ティポロ（Tipolo）」、タガログ語でパンノキを意味する言葉に由来します。17世紀初頭に安置された聖母マリア像、「平和と善き航海の聖母」（アンティポロの聖母）にまつわる伝説が起源とされています。

地理

市の半分は海抜200mの高原に位置し、南にはバエ湖が広がります。総面積は385.04平方キロメートルで、人口は約77万6千人（2015年）です。周辺にはロドリゲス、サン・マテオ、タナイ、アンゴノ、タイタイ、テレサ、カインタなどの自治体があります。

歴史

1578年、フランシスコ会の宣教師によって集落が作られたのがアンティポロの始まりとされています。1591年にはイエズス会の伝道所となり、発展を遂げました。

1626年、当時のフィリピン総督がアカプルコから持ち込んだ聖母マリア像がイエズス会に授けられ、アンティポロの教会に移されました。この像が「善き航海の聖母」として知られるようになり、マニラ・ガレオンの守護聖人として崇敬を集めたことで、アンティポロはフィリピンにおける重要な巡礼地となりました。

1853年にはモロン州の一部となり、1864年には教会の運営がアウグスチノ会レコレクト派に引き継がれました。

フィリピン第一共和国時代にはモロン州の州都となりましたが、米比戦争の影響で米軍に占領されたため、州都はタナイに移されました。1901年に、モロン州とマニラ州の一部からリサール州が誕生し、アンティポロはその一部となりました。

太平洋戦争中には、マニラ周辺からの避難民が集まるも、日本軍に占領され、1945年に米軍の空襲を受けました。教会は大きな被害を受けましたが、聖母像は住民によって事前に避難させられたため無事でした。

1952年には、観光名所であるヒヌルーガン・タクタクの滝が国立公園に指定されました。アンティポロ教会の再建は1954年に完了し、1983年にアンティポロ教区がマニラ大司教区から独立した際に、教会は司教座聖堂に昇格しました。

1998年、アンティポロは正式に市となり、リサール州の事実上の州都としての役割を担うようになりました。2011年には、高度都市に指定されています。

文化

アンティポロは「フィリピンの巡礼の中心地」として知られ、今もなお多くのカトリック信者が大聖堂を訪れます。特に、聖週間や聖母マリアを讃える5月には、マニラから徒歩で巡礼する人々が多く見られます。

名産品としては、マンゴー、カシューナッツ、スーマン（もち米とココナッツミルクで作られた伝統的なお菓子）が有名です。

交通

マニラ首都圏からの交通手段は、バス、FX（乗り合いタクシー）、ジプニー、一般タクシー、そしてLRT（高架鉄道）があります。

バスはスムーロン・ハイウェイからオルティガス・アベニューを結ぶルートで運行されています。FXはアンティポロ大聖堂近辺とマニラ首都圏を結ぶ路線で24時間利用可能です。ジプニーは、アンティポロ周辺からケソン市のクバオ・ファーマーズ・マーケットまで運行しています。市内ではトライシクルが一般的な移動手段です。

2021年には、LRT2号線のアンティポロ駅が開業し、マニラ首都圏外への初の駅となりました。

名所・旧跡

アンティポロ大聖堂（Antipolo Cathedral）: アンティポロ教区の司教座聖堂であり、聖母マリア像が安置されています。伝説によると、聖母像はパンノキの上で発見されたことから、その場所に教会が建てられました。旧聖堂は太平洋戦争で破壊されましたが、1954年に再建されました。
ボソボソ教会（Bosoboso Church）: 正式名称は「受胎告知の聖母教会」で、1669年にフランシスコ会によって設立された伝道所です。その後イエズス会に移管され、地震や火災で損壊しましたが、1986年から1995年にかけて修復されました。
ヒヌルーガン・タクタクの滝（Hinulugang Taktak）: 自然の美しさを堪能できる滝で、国立公園に指定されています。
ピナグミサハン・ヒル（Pinagmisahan Hill）: 「ホワイト・クロス」とも呼ばれる丘で、十字架の道行きを再現した像が点在しています。コレラ流行時に聖母像が運ばれミサが行われた場所として知られています。
* ピント美術館（Pintô Art Museum）: ジョベン・クアナン博士のコレクションを展示する美術館で、「ピント」はフィリピン語で「扉」を意味します。

アンティポロは、歴史、信仰、文化、そして自然が調和した魅力的な都市です。巡礼地としてだけでなく、観光地としても訪れる価値があります。

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