アントン・ドーリン

アントン・ドーリン（Sir Anton Dolin, 1904年7月27日 - 1983年11月25日）は、20世紀の英国バレエ界を牽引したダンサー、振付家です。彼は英国初のダンスールとして、バレエ後進国であった祖国のバレエ振興に多大な貢献を果たしました。

生い立ちとバレエとの出会い

本名をシドニー・フランシス・パトリック・チッペンデール・ヒーリー=ケイ（Sydney Francis Patrick Chippendall Healy-Kay）というドーリンは、英国南部ウェスト・サセックス州の小さな村で生まれました。アイルランド出身の母親の勧めで、10歳頃から舞台教室に通い始め、これが彼のバレエへの第一歩となりました。当時の英国には本格的なバレエ学校はまだなく、俳優の子役やダンスを教える教室が一般的でした。13歳の時、亡命ロシア人バレリーナ、S・アスタフィエワのバレエに感銘を受け、彼女の指導を受けることを決意します。

バレエ・リュスでの活躍

1921年、アスタフィエワの紹介で、セルゲイ・ディアギレフ率いるバレエ・リュスのロンドン公演に群舞として参加しました。その後もアスタフィエワの下で研鑽を積み、1924年にミハイル・フォーキン振付の『ダフニスとクロエ』でバレエ・リュスのソリストとしてデビューを果たしました。彼は英国人として初めてバレエ・リュスの主役を踊り、その才能を開花させました。同年、ニジンスカの新作『青列車』（Le Train Bleu）の主役にも抜擢され、ダンスールとしての地位を確立しました。バレエ・リュスでの活動は1924年から1925年、そして1928年から1929年の4シーズンのみでしたが、その間に本国でのレビューにも出演するなど、バレエ以外の分野でも活躍しました。バレエ・リュス入団時、ディアギレフからロシア風の「アントン・ドーリン」という芸名が与えられました。それ以前には「パトリキエフ」の名で踊っていた時期もありました。

英国バレエの発展への貢献

ディアギレフの死後、ドーリンは英国のバレエ振興団体であるカマルゴ協会の設立に参加し、その活動の一環として1930年から1935年までヴィク・ウェルズ・バレエ団（現在の英国ロイヤル・バレエ団の前身）で主役を務めました。同じくアスタフィエワに師事したアリシア・マルコワとは1927年からパートナーを組み、ヴィク・ウェルズ・バレエ団でも共演しました。二人の活躍は、英国にバレエの観客層を定着させる上で重要な役割を果たしたと言われています。

1935年には、マルコワとともにヴィク・ウェルズ・バレエ団を退団し、マルコワ・ドーリン・バレエ団（現在のイングリッシュ・ナショナル・バレエ団）を設立、国内外を巡演しました。

マルコワとは密かに愛を誓い合った仲であったとも伝えられていますが、二人は生涯結婚することはありませんでした。1981年には77歳でナイトの爵位を授与され、1983年にパリで生涯を閉じました。

振付作品と晩年

ドーリンの最初の振付作品は1923年の『太陽への讃美』（Hymn to the Sun）です。彼の代表作として知られるのは、1941年にアメリカのバレエ・シアター（現在のABT）で振り付けた『パ・ド・カトル』で、この作品は現在でもバレエ・コンサートなどで広く親しまれています。1964年以降は、『白鳥の湖』や『ジゼル』などの古典作品の再振付も行いました。

アントン・ドーリンは、英国バレエの黎明期を支え、その発展に大きく貢献した人物として、その功績は長く語り継がれることでしょう。

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