イングリッシュ・ナショナル・バレエ団

イギリスのバレエ界において中心的な存在の一つであるイングリッシュ・ナショナル・バレエ団（ENB）は、ロンドンに本拠を構えています。英国を代表する主要な五大バレエ団の一つとして、ロイヤル・バレエ団などと肩を並べる重要な位置を占めています。約67名のダンサーを擁し、専属のイングリッシュ・ナショナル・バレエ・フィルハーモニー管弦楽団と共に活動しています。ENBは特に、その広範なツアー活動で知られており、イギリス国内の様々な劇場での公演に加え、海外公演や特別なイベントにも積極的に参加し、ヨーロッパでも有数の優れたツアーカンパニーとして評価されています。ロンドンでは、ロンドン・コロシアムを主な活動拠点とし、定期公演を行っています。また、ロイヤル・アルバート・ホールのような大規模な会場での特別公演も開催しています。2014年からは、サドラーズ・ウェルズの関連カンパニーとしても活動しています。

設立と初期の歩み

ENBの歴史は、1950年に著名なダンサーであったアリシア・マルコワとアントン・ドーリンによって「ロンドン・フェスティバル・バレエ団」として創設されたことに遡ります。彼らの目的は、当時の観客があまりバレエに触れる機会がなかった時代に、広くバレエを普及させることでした。マルコワとドーリンは、20世紀バレエ史に大きな影響を与えたバレエ団「バレエ・リュス」のスターダンサーであり、その解散後、ニネット・ド・ヴァロアがロンドンに設立したヴィック・ウェルズ・バレエ団（後のロイヤル・バレエ団）で主要ダンサーとして活躍しました。1935年に独立し、マルコワ・ドーリン・カンパニーとしてツアーを行った経験から、より多くの人々にバレエを届けることの重要性を確信し、新たなバレエ団設立へと至りました。

創設時には、ポーランドの興行師ジュリアン・ブラウンスヴェクからの資金援助を受けました。バレエ団名は当初、翌年に開催予定だったフェスティバル・オブ・ブリテンにちなんで命名されましたが、その後数回の改称を経て、1989年6月に現在のイングリッシュ・ナショナル・バレエ団となりました。初代芸術監督に就任したドーリンは、創設間もない時期から国内外でのツアーを積極的に展開し、バレエ初心者向けの教育プログラムも導入するなど、バレエ普及に尽力しました。

歴代芸術監督の時代

1962年にドーリンが退任した後、芸術監督のポストはジョン・ギルピン、ベリル・グレイ、ジョン・フィールドと引き継がれました。ギルピン時代には団の規模と評価が高まりましたが、財政難にも直面しました。ベリル・グレイの時代には、技術水準の向上に力が入れられ、国内外での広範なツアーや、レオニード・マシーン、ルドルフ・ヌレエフといった世界的なスターダンサーや振付家が招かれました。特にヌレエフは、エヴァ・エフドキモワを起用した『眠れる森の美女』の改訂振付などで貢献しました。

1984年には、ローレンス・オリヴィエ賞などの受賞歴を持つペーター・シャウフスが芸術監督に就任しました。この時期にバレエ団の名称は「イングリッシュ・ナショナル・バレエ団」に正式に改められ、関連教育機関としてイングリッシュ・ナショナル・バレエ学校も設立されました。ダイアナ妃がパトロンとなるなど、社会的な注目度も高まりました。シャウフスは、フレデリック・アシュトン、ケネス・マクミラン、ジョージ・バランシンなど、多岐にわたる著名な振付家の作品をレパートリーに導入し、バレエ団を新たな高みへと導きました。この時期は、イングリッシュ・ナショナル・バレエ団の「黄金時代」と称されることもあります。

その後も、イヴァン・ナギー、デレク・ディーン、マッツ・スクーグが芸術監督を務め、2006年にはウェイン・イーグリングが就任しましたが、予算削減に関する意見の相違から2012年に辞任しました。同年8月からは、ロイヤル・バレエ団のスターダンサーであったタマラ・ロホが芸術監督の座を引き継ぎ、現在に至ります。

注目すべきレパートリーと取り組み

イングリッシュ・ナショナル・バレエ団は、古典バレエからコンテンポラリー作品まで、幅広いレパートリーを持っています。特に、ルドルフ・ヌレエフがエリザベス2世女王の銀婚式を記念して1977年に当団のために創作した『ロメオとジュリエット』は、重要な作品の一つです。

近年では、新たな取り組みも積極的に行っています。2014年には、当時バレエ作品を手がけたことのなかったアクラム・カーンに第一次世界大戦をテーマにした作品を委嘱し、生まれた『ダスト』は高い評価を得ました。この作品を携え、同年にはグラストンベリー・フェスティバルという異分野のイベントにも初参加しました。また、2016年には、フリーダ・カーロの生涯を描いたアナベル・ロペス・オチョア振付の『Broken Wing』を含む、全て女性振付家による作品で構成された画期的な公演『She Said』を実施するなど、多様な視点からの創作活動にも力を入れています。

イングリッシュ・ナショナル・バレエ団は、その設立当初の理念である「より多くの人々にバレエを届ける」という使命のもと、国内外での活発な活動を通じて、英国バレエ界の発展に貢献し続けています。

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