アーサー・ファーウェル

アーサー・ファーウェル（Arthur Farwell、1872年 3月23日 - 1952年 1月20日）は、20世紀初頭のアメリカ合衆国を代表する、多岐にわたる才能を持つ芸術家でした。彼は作曲家、指揮者、教育者、楽譜出版者、作家、そして神秘主義者として、アメリカ音楽の発展にユニークな足跡を残しました。特に、アメリカ先住民（アメリンディアン）の音楽にインスピレーションを得た作品群を通じて、独自の音楽運動を推進したことで知られています。

生涯

ミネソタ州セント・ポールに生まれたファーウェルは、当初、技術者を志しマサチューセッツ工科大学（MIT）で学び、1893年に卒業しました。しかし、ボストンの個性的な作曲家ルドルフ・ゴットとの出会いが彼の人生の転機となり、音楽の道へと進むことを決意します。ボストンでジョージ・ホワイトフィールド・チャドウィックらに師事した後、ヨーロッパに渡り研鑽を積みました。ベルリンではエンゲルベルト・フンパーディンクに、パリではヴァンサン・ダンディの指導を受けたエルネスト・ギルマンに師事するなど、多様な音楽教育を受けました。

帰国後、ファーウェルは教育活動を開始し、1899年から1901年にかけてコーネル大学で音楽講師を務めました。この頃、彼はアメリカ独自の音楽を模索する中で、重要な活動拠点となる楽譜出版社ワーワン・プレス（Wa-Wan Press）を設立します。ワーワン・プレスは、エドワード・マクダウェルからも影響を受けつつ、特にアメリンディアンの民族音楽に根差した作品や、それを示唆するような作品を中心に刊行しました。ファーウェル自身がこの「アメリンディアン音楽運動」ともいうべき潮流の中心人物となり、自らの作品を含む多くの楽曲を世に送り出しました。

指揮者としても活躍し、1910年から1913年にはニューヨーク市で自主企画のコンサートを指揮しました。特に、1,000人もの歌手を擁する大規模な合唱曲の演奏を手掛け、自作も披露しました。教育者としてのキャリアも続き、1915年から1918年まではニューヨーク州セツルメント音楽学校の院長を務めました。その後、カリフォルニア州に移住し、ロイ・ハリスのような後の著名な作曲家を個人指導しました。1918年から翌1919年にかけてはカリフォルニア大学バークレー校の音楽学部長を務めたほか、サンタ・バーバラ地区合唱団を自ら設立し指揮活動を行いました。また、1921年から1925年には、作曲家として初めてパサデナ音楽・芸術協会の会友に選ばれています。1927年から1939年までミシガン州立大学で音楽理論を指導し、ディカ・ニューリンといった弟子を育てました。晩年はニューヨークに落ち着きました。

ファーウェルは、楽譜出版という自身の事業を含むアメリカ音楽における商業的な側面に幻滅を感じていたと言われています。そのため、1936年4月にはミシガン州イースト・ランシングにおいて、自らの作品を自力で印刷するための出版社を設立し、装丁を含む出版工程のすべてを自身で行ったというエピソードも残されています。

音楽と著作

アーサー・ファーウェルの創作活動は非常に幅広く、おびただしい数の器楽曲、室内楽曲、合唱曲、管弦楽曲に加え、劇付随音楽や商業音楽も手掛けています。彼の作品の中には、個人的な探求心を反映し、霊的な秘儀や神秘主義をテーマにしたものも含まれます。こうした霊性への関心は、直感力に関する講演や著作といった分野でも重要な主題となっていました。

主要な音楽作品としては、数曲からなる管弦楽曲《象徴主義的習作（Symbolistic Studies）》や、師ルドルフ・ゴットが遺した断片を発展させた《交響曲》、大規模な合唱と管弦楽のための作品で「交響的儀式」と称される《山の歌》などが挙げられます。また、弦楽四重奏曲やピアノ五重奏曲といった室内楽の分野でも作品を残しています。彼の初期から中期にかけての特徴的な仕事として、アメリンディアンの民族音楽に触発された多数のピアノのための性格的小品や歌曲があります。

作曲家としてのファーウェルは、生涯を通じて絶えず自己革新を続けました。特に、キャリア最後の20年間において、最も個性的で進歩的な作品群を生み出しました。この時期の作品には、複調性を探求したピアノ曲や、いくつかの簡潔ながら密度の高いソナタ、エミリー・ディキンソンの詩に巧みかつ十分に音楽を付けた歌曲集があります。また、アルノルト・シェーンベルクやイーゴリ・ストラヴィンスキーといった当時の前衛音楽家をユーモラスにパロディした諷刺オペラ《漫画（Cartoon）》も、後期の注目すべき作品です。

ファーウェルは、その多才な活動と、特にアメリカ独自の音楽語法の探求、中でもアメリンディアン音楽への深い関心を通じて、20世紀初頭のアメリカ音楽界に重要な影響を与えました。彼の業績は、単なる作曲家にとどまらず、出版者や教育者としての貢献も含めて評価されるべきものです。

もう一度検索