アーバンシー

アーバンシー：凱旋門賞の番狂わせと偉大な血脈

アーバンシー(1989年-2009年)は、アメリカで生まれ、フランスで競走生活を送った競走馬です。その名は、香港の貿易商がヴィクトリアピークの景色から着想を得て名付けたと言われています。競走成績は24戦8勝。スピードという点では他馬に劣るものの、スタミナと道悪適性、そして勝負根性の強さに優れていました。特に、重馬場での活躍が目立ち、その勝率の高さが際立っています。

華麗なる血統

アーバンシーの父は、仏英米で活躍したMiswakiです。サラマンドル賞を制覇するなど、その能力は高く評価されていました。種牡馬としても成功を収め、ジャパンカップ優勝馬マーベラスクラウンやBCクラシック優勝馬ブラックタイアフェアーといった名馬を輩出しています。スピード系の血統ながら、芝への適応力に長けた珍しいステイヤーでした。

一方、母は英国産馬Allegretta。ドイツの名門牧場シュレンダーハン牧場が育んだ「Aライン」と呼ばれる牝系の出身です。父Lombardはドイツ年度代表馬を2度獲得した名馬でした。Allegretta自身も英G3で2着に入るなど、競走馬として一定の成績を残しました。アーバンシーは、Allegrettaの5番仔としてアメリカで生まれ、後にフランスのエトレアム牧場で育成されました。

波乱の凱旋門賞制覇

2歳時にフランスでデビューしたアーバンシーは、順調にキャリアを積み重ね、3歳時には重賞レースで好走を重ねますが、なかなか勝利には届きませんでした。財政的な事情により、競走馬としてセリ市にかけられることもありましたが、調教師のレスボルド師の尽力により買い戻され、その後4歳で開花します。

4歳時にはG3エクスビュリ賞とG3ゴントービロン賞で重賞初制覇、そして、念願の凱旋門賞への挑戦です。13番人気という低評価、38倍という高配当の中、アーバンシーは、伝説的騎手イヴ・サンマルタンの息子、エリック・サンマルタン騎手の好騎乗もあり、劇的な勝利を収めます。重馬場を味方につけて、クビ差で2着のホワイトマズルを振り切りました。これは、アーバンシー、レスボルド調教師、そしてエリック騎手にとって初のGI制覇となりました。

この勝利は、大きな驚きをもって迎えられました。時計のかかる馬場状態が勝因の一つとして挙げられる一方、アーバンシーの勝負根性やエリック騎手の巧みな騎乗も評価されています。その後、ジャパンカップにも出走しましたが、8着に終わりました。

繁殖牝馬としての大成功

5歳で引退したアーバンシーは、繁殖牝馬として新たなキャリアをスタートさせました。11頭の産駒のうち、実に8頭がステークスウィナー、6頭が重賞勝ち馬、そして4頭がG1優勝馬という驚異的な成績を残しました。

中でも、ガリレオとシーザスターズは、英ダービーを制覇しただけでなく、種牡馬としても大成功を収めました。ガリレオは英愛リーディングサイアーを12度獲得、シーザスターズは英クラシック2冠馬となり、凱旋門賞を含む6つのG1レースを制覇、欧州年度代表馬にも輝きました。これらの活躍により、アーバンシーの血脈は世界中に広がり、現代競馬に多大な影響を与えています。

アーバンシーの産駒からは、多くの活躍馬が誕生しました。その中には、タタソールズゴールドカップなどを制したブラックサムベラミーや、米G1ダイアナステークスを制したマイタイフーンなどがいます。

2009年に繋養先のアイリッシュ・ナショナルスタッドで出産後の合併症により死亡しました。その生涯は、競走馬としての活躍と、繁殖牝馬として後世に残した偉大な血統という、二つの大きな成功によって彩られました。アーバンシーは、サラブレッドの歴史において最も重要な牝馬の1頭として、その名を刻み続けるでしょう。

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