アーントーン県

タイ王国の中央部に位置するアーントーン県（จังหวัดอ่างทอง）は、豊かな水資源と肥沃な大地に恵まれた、タイの穀倉地帯の一角を占める県（チャンワット）です。北はシンブリー県、東はロッブリー県、南はタイ古都として名高いアユタヤ県、そして西はスパンブリー県と接しており、タイ中部地域の要衝の一つとなっています。

アーントーン県の地形は極めて平坦であり、県域全体にわたって目立った山や丘陵は見られません。その代わりに、この県はタイを代表する大河、チャオプラヤー川と、その重要な支流であるノーイ川に抱かれるように広がっています。これら二つの大河に加え、古くから開削されてきた数多くの運河が県内を網の目のように走り、豊富な水資源をもたらしています。この地理的条件により、土地は極めて肥沃であり、とりわけ水田を利用した稲作に非常に適した環境が形成されています。水の恵みを最大限に活かした農業が、この県の経済と文化の基盤となっています。

現在のアーントーン県がある地域は、古くはウィセートチャイチャーンという名で知られていました。アユタヤー王朝の時代には、その地理的な優位性から、敵の侵入を防ぐための重要な軍事拠点として機能していました。河川に囲まれた地形は、自然の要害としての役割を果たしたと考えられています。アユタヤー王朝の崩壊後、タークシン王がトンブリーに新しい王朝を開いた際に、ウィセートチャイチャーンの町は、より利便性の高い現在の位置へと移転されました。この移転を経て、現在のアーントーン県の基礎が築かれたとされています。

アーントーン県の象徴として制定されている県章には、稲穂のデザインが力強く描かれています。これは、この県がチャオプラヤー川流域の肥沃な平地に広がり、特に稲作が主要な産業であることを端的に示しています。豊かな米の収穫が、古くからこの地の住民の暮らしを支えてきました。また、県の木としてはベンガルカキ（学名：Diospyros malabarica）が指定されています。この木は、この地域の自然環境に適応し、人々の生活や文化に根差した存在として選ばれたものです。

アーントーン県の行政は、階層的な構造を持っています。県全体はまず、7つの郡（アムプー）に分割されています。これらの郡は、ムアンアーントーン郡、チャイヨー郡、パーモーク郡、ポートーン郡、サウェーンハー郡、ウィセートチャイチャーン郡、サームコー郡です。さらにその下に、より細かい行政単位として73の町（タムボン）が存在し、最も基礎的なコミュニティ単位として513の村（ムーバーバーン）が置かれています。これらの区分を通じて、県政が効果的に運営され、住民サービスが提供されています。

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