イェーナ市電

ドイツのテューリンゲン州に位置する都市、イェーナの路面電車網は、ドイツ語で「シュトラーセンバーン・イェーナ（Straßenbahn Jena）」と呼ばれています。この路面電車は、市内のバス路線と共に、イェーナ市が所有するイェーナ地方交通有限会社（Jenaer Nahverkehr GmbH）によって運営されています。

歴史

イェーナ市に初めて路面電車が開通したのは20世紀初頭、1901年 4月6日のことでした。開業当初は2軸単行運転が中心でしたが、利用者の増加を受けて1909年には本格的に付随車を連結した運行が始まりました。また、前年の1908年からは路線網の延伸も積極的に行われました。第一次世界大戦後の深刻なインフレーションの影響を受け、1922年から1924年にかけては一時的に運行を停止する事態に見舞われたものの、同年以降は線形改良を伴う移設も含めて路線は拡張され、1936年までには総延長18.33 kmの路線網が構築されていました。

第二次世界大戦中も、従業員の徴兵による人員不足で一部路線が運休しながらも運行は継続されました。しかし、1945年 4月の空襲によりカムドルフ橋が破壊されたことで、ついに全線の運行が停止しました。終戦後の5月5日には一部区間で運行が再開されましたが、部品不足などの影響で全面的な再開には数年を要しました。

戦後、東ドイツの一部となったイェーナ市電には、東ドイツ製の車両が継続的に導入されました。1950年代から1960年代前半にかけては、路線の複線化や改修工事が進められました。しかし、1960年代以降は自動車の普及（モータリーゼーション）が進み、多くの路線がバスへと転換され、廃止に至りました。転換の動きが強まりましたが、その後、利用者の増加により路面電車の輸送力が改めて評価されたことや、オイルショックによる燃料不足でバス運行が困難になったことなどを背景に、路面電車が見直されることになりました。これを受けて、1980年代以降は再び複線化工事が始まり、新規路線の延伸計画も立てられるようになりました。

ドイツ再統一後、イェーナ市電の存廃が再び議論の対象となりましたが、1991年に市議会は将来にわたる存続と近代化、そして路線網の拡充を決定しました。この決定に基づき、老朽化した既存路線の改修工事が進められると共に、1993年からは新規路線の建設が開始されました。これらの新線は1996年と1997年に順次開業しました。さらに2009年にも新たな延伸が実施され、2021年現在では総延長が26.45 kmに拡大しています。加えて、2023年には、当時の1号線の終点であるツヴィッツェン・ループから北へ向かう全長1.1 kmの新線建設がチューリンゲン州からの助成金を得て承認されました。この区間は2025年に建設を開始し、2027年までの開業が予定されています。車両面でも近代化は進み、1995年以降超低床電車の導入が継続され、2003年からは全ての営業列車が超低床電車に統一されています。

運行

2021年時点において、イェーナ市電では合計5つの運行系統が設けられています。

車両

営業用車両

2021年現在、イェーナ市電で運用されている営業用車両は、全てバリアフリーに対応した超低床構造の電車で統一されています。

ブレーメン形: 複数のメーカーが共同で開発した超低床電車です。イェーナ市電には両運転台式の3車体連接車が1995年から2003年にかけて33両（車両番号601-633）導入されました。これまでの主力であった2軸車を置き換える形で、長年にわたり中心的な役割を担ってきましたが、老朽化が進んでいるため一部車両の置き換えが進められています。そのうち10両はポーランドのウッチ市電へ譲渡されました。
トラミーノ: ポーランドのソラリス社が開発し、現在はスイスのシュタッドラー・レール社が展開する超低床電車です。イェーナ市電には2013年以降、両運転台式の3車体連接車が5両（車両番号701-705）導入されています。これは、ドイツの路面電車としては初めてポーランド製の車両が導入された事例となりました。これらの車両には、イェーナの姉妹都市の愛称が付けられています。
トラムリンク: シュタッドラー・レール社製の超低床電車です。老朽化したブレーメン形の置き換えを主な目的として、2020年にイェーナ地方交通との契約に基づき開発・設計が進められました。総導入費用約9,200万ユーロの一部には、欧州連合（欧州地域開発基金）やテューリンゲン州からの支援が活用されています。これらの両運転台式車両は「トラムリンク800」というブランド名で呼ばれ、光学産業で知られ「光の町（Lichtstadt）」とも称されるイェーナにちなんで「リヒトバーン（Lichtbahn）」という愛称が付けられています。2023年5月に最初の車両が納入され、同年12月から営業運転を開始しました。今後、2026年までに7車体連接車16両と5車体連接車17両が順次導入される予定です。

団体用車両

イェーナ市電には、イベントや団体利用に供される特別な車両も存在します。ハイデルベルク市電から2003年に譲渡された車両番号666は、「Partywagen」と呼ばれる団体用車両に改造され、2004年から使用されています。

動態保存車両

イェーナ市電は、動態保存路線を除けばドイツで最後まで2軸車の営業運転が行われていた路線でしたが、2003年のブレーメン形導入完了をもって営業運転を終了しました。その後も、以下の4両が動態保存車両として大切に保存されています。

車両番号26: 1929年に製造されたアイゼナハ市電向けの車両です。アイゼナハ市電は1975年に廃止されましたが、翌1976年のイェーナ市電開業75周年を記念して譲渡されました。2004年には再整備も実施されています。
車両番号101: 1959年にゴータ車両製造で製造された2軸電動車です。下記の付随車を連結して運行することも可能です。
車両番号155: 1959年製の2軸付随車です。
* 車両番号189: 1973年製の2軸付随車です。

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