イスノキ

イスノキ（柞の木）

イスノキ（学名：Distylium racemosum）は、マンサク科に属する常緑高木で、日本では暖地に自生しています。別名としてユスノキ、ユシノキ、ヒョンノキとも呼ばれ、中国では蚊母樹、韓国ではチカキマウェケォという名で知られています。

分布

日本では、静岡県以西の本州、四国、九州、琉球列島に分布し、暖地の山地に自生します。特に沖縄では、石灰岩地の森林で優占種となることがあります。国外では、済州島、台湾、中国南部にも分布しています。

特徴

イスノキは高さ20〜25mに達する常緑広[[葉樹]]です。樹皮は灰白色ですが、大木になると赤みを帯びることがあります。

葉

葉は互生し、長さ5〜8cmの長楕円形で、革のような質感で、表面には強い光沢があります。葉には特徴的な虫こぶがよく見られます。これは、イスノキコムネアブラムシやイスオオムネアブラムシといったアブラムシの寄生によって形成されるもので、特にイスオオムネアブラムシによって作られる丸く膨らんだ虫こぶは「ひょんの実」と呼ばれています。これらの虫こぶは、イスノキを特定する際の重要な手がかりとなります。虫こぶは成長すると穴が開き、そこを吹くと笛のような音が出ることから、別名の「ヒョンノキ」の由来となっています。また、「ひょんな」という言葉の語源とする説もあります。

花

花期は3〜4月で、葉の付け根から総状花序を出し、小さな花を咲かせます。花序の根元には雄花、先端には両性花がつきます。花弁はなく、萼も小さいですが、5〜8個の雄しべがあり、葯は赤く色づきます。葯が乾燥すると裂開し、風によって花粉が運ばれます。

果実

果実は10月頃に熟し、広卵形で黄褐色の毛で覆われています。先端には雌しべが二つに割れた突起があります。果実が熟すと二つに裂け、黒色の種子が露出します。

利用

イスノキの材は、非常に堅く重いため、家具や杖の材料として利用されます。特に、イスノキ製の木刀は、示現流の剣術で使用されることで有名です。また、材や樹皮を燃やした灰は、陶磁器の釉薬の融剤として使われます。樹皮はトリモチの原料にもなり、採取後に放置されたイスノキの心材は「スヌケ」と呼ばれ、濃い茶色で光沢があります。

乾燥に強く丈夫なため、街路樹として植えられることもあります。また、虫こぶは成熟すると笛として楽しむことができ、タンニンを含むため、染料としても利用されます。

近似種

イスノキ属の植物はヒマラヤ地域にも数種知られていますが、日本ではこの種のみです。葉の形など、特徴がはっきりしないため、虫こぶがイスノキを特定する上で重要な手がかりとなります。

その他

鹿児島県の「伊集院」という地名は、イスノキが多く自生していたこと、そして平安時代に税として納められた稲穂を保管する倉院が置かれたことに由来します。また、静岡県下田市にある八幡神社のイスノキは、国の天然記念物に指定されています。

イスノキは、その独特な生態や様々な利用法、歴史的な背景から、人々の生活と深く関わってきた樹木と言えるでしょう。

もう一度検索