イタリア首都近郊管区 (古代ローマ)

イタリア首都近郊管区：古代ローマ帝国の行政区画

イタリア首都近郊管区は、ローマ帝国のコンスタンティヌス1世（306年 - 337年）によって設置された行政区画であり、中南部イタリアを包含していました。この管区は、管区代官の中でもっとも高位の首都ローマ管区代官によって統治され、その首都はローマに置かれていました。

歴史

コンスタンティヌス1世は、イタリア管区を2つの行政区、すなわちイタリア首都近郊管区とイタリア食料供給管区に分割しました。同時代の史料である『ヴェローナ・リスト』や『ノティティア・ディグニタートゥム』では、イタリア管区は法令上単一のままでしたが、実際には2つの管区に分割されていたと考えられています。ただし、両管区は1人の管区代官によって支配されており、その地位は管区代官の中でもっとも高い文官職でした。そのため、正式名称は「vicarius」であるにもかかわらず、しばしば「diocese」と呼ばれることもありました。

イタリア首都近郊管区は、中南部イタリアに加えて、シチリア島、サルデーニャ島、コルシカ島といった島嶼部も包含していました。首都近郊管区と食料供給管区の境界は、アルノ川とエージノ川に沿って設定されていました。管区の住民が穀物や食料品で納める税は、主にローマ市の市民の食料として利用されました。管区の最高位の文官は、ローマ市に居住する首都ローマ代官（ウィカリウム・ウルビス・ロマエ）であり、その職はセウェルス朝時代の近衛長官代行（agens vices praefectorum pretorio）に由来します。近衛長官代行は、ローマに近衛長官が不在の場合に近衛隊を指揮する役割を担っていました。コンスタンティヌス1世は、ローマにおける反乱を防ぐため、また近衛隊がマクセンティウスを支持してローマが敵側に奪取されることを防ぐために、ローマ市を武装解除し、近衛長官代行を首都ローマ代官に置き換えました。これにより、軍事力を奪い、イタリア首都近郊管区の最高位の文官職を創設したのです。

属州構成

『ヴェローナ・リスト』（314年頃）によれば、イタリア首都近郊管区は以下の属州から構成されていました。

トゥスキアとウンブリア (Tuscia et Umbria)
カンパーニア (Campania)
アプーリアとカラブリア (Apulia et Calabria)
ルカニアとブルッティイ (Lucania et Bruttii)
シキリア (Sicilia)
サルディニア (Sardinia)
コルシカ (Corsica)

一方、『ノティティア・ディグニタートゥム』（395年頃に原型が完成し、420年頃までに更新）によれば、以下の属州が含まれていました。

トゥスキアとウンブリア (Tuscia et Umbria)
ピケヌム近郊（Picenum Suburbicarium）
ウァレリア (Valeria) （サビナ）
カンパーニア （カンパニア州）
サムニウム (Samnium) （アブルッツォ州、モリーゼ州とサムニウム）
アプリアとカラブリア (Apulia et Calabria) （プッリャ州 とサレント半島、およびイルピニア）
ルカニアとブルッティイ (Lucania et Brutii) (チレント、バジリカータ州とカラブリア州）
シキリア (Sicilia)
サルディニア (Sardinia)
* コルシカ (Corsica)

西ローマ帝国滅亡後

西ローマ帝国の滅亡後も、イタリア首都近郊管区は存続しました。6世紀末から7世紀初頭のビザンツ時代には、近衛長官代行の教皇宛て書簡で、ジェノヴァとローマの代官 (agentes vices) やvicariiに言及されています。しかし、6世紀末にはvicariusの地位は特権の多くを失いました。これは、文官が日常的に遂行する職務能力を代行する軍官の重要性が増したこと、そしてランゴバルド族の侵入による影響が大きいと考えられます。東ゴート王国時代には、首都ローマ管区代官は管区政府を失い、ローマ市長官の協力者となり、管区代官の管轄範囲はローマ市とその周辺40マイル（64.4km）の地域に縮小されました。ただし、Cosentinoは、557年の時点では代官（vicarii）はまだローマ市長官に依存しておらず、道長官（プラエフェクトゥス・プラエトリオ）に所属していたと指摘しています。6世紀末のビザンツ時代には、代官（vicarii）は財務のみを扱い、古代の職権をほとんど失いました。最終的に、首都ローマ管区代官（vicarius urbis Romae）はローマ市長官よりも重要性を失い、史料に登場しなくなりました。

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