イベリア半島の地中海沿岸の岩絵

イベリア半島の地中海沿岸の岩絵（レバント美術）

イベリア半島の地中海沿岸に広がる岩絵群、通称レバント美術は、スペインの世界遺産に登録されています。この岩絵群は、カタロニア州、アンダルシア州、ムルシア州、バレンシア州、アラゴン州、カスティーリャ＝ラ・マンチャ州の6つの州にまたがり、700箇所以上もの地点で確認されています。これらの岩絵は、先史時代の人々が岩壁に描いたもので、その総数は膨大です。

概要

岩絵の正確な製作年代については議論がありますが、おおむね紀元前8000年頃から紀元前3500年頃に描かれたと考えられています。これらの岩絵は、洞窟壁画の一種ではあるものの、他の洞窟壁画とは異なり、自然光が差し込む場所に描かれていることが多いのが特徴です。岩絵は、染料などを用いて彩色されたものが多く見られますが、線刻で表現されたものも存在します。主に赤と黒の顔料が用いられ、中には1～3ミリ程度の非常に細い線で描かれたものもあります。これは羽根ペンや植物の一部を使ったものと考えられています。

岩絵のサイズは、数十センチ程度のものがほとんどで、他の世界遺産に登録されている岩絵群と比較すると、小ぶりなものが多くなっています。描かれている内容は、主に狩猟採集生活を送る人々や動物たちの姿です。当時の人々の生活の様子を具体的に伝えてくれる貴重な資料となっています。その他にも、養蜂、戦闘、処刑、葬儀、儀式、魔女、動物や半人半獣の生物に関する絵も見られます。

この地域は、イヌワシ、ボネリークマタカ、ハヤブサ、スペインオオヤマネコ、スペインアイベックスなどの絶滅危惧種や固有種の生息地でもあり、生態系としての価値も非常に高い地域です。

登録対象

登録されている地点は全部で758箇所です。ICOMOS（国際記念物遺跡会議）は、これらの岩絵をスタイルや主題に基づいて7つの地域に分類しています。

北部
マエストラスゴとエブロ川下流
クエンカとアルバラシンの山岳地帯
フカル川洞窟と近隣山岳地帯
サフォル地方とラ・マリナ地方
セグラ川盆地と近隣山岳地帯
東アンダルシア

登録基準

イベリア半島の地中海沿岸の岩絵（レバント美術）は、世界遺産登録基準のうち、以下の条件を満たし登録されました。

(3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。

ICOMOSは、既に世界遺産に登録されていたタッシリ・ナジェール（アルジェリア）、ヴェゼール渓谷（フランス）、シエラ・デ・サンフランシスコ（メキシコ）などの岩絵と比較しても、この岩絵群が持つ独特の価値を高く評価しました。特に、描かれている図像の小ささや、狩猟採集社会から農耕社会への過渡期に描かれたという点に注目し、世界遺産として登録されるべき価値があると判断されました。これらの岩絵は、当時の人々の生活や文化を今に伝える、極めて重要な証拠と言えるでしょう。

この世界遺産は、先史時代の文化、歴史、そして美術を知る上で、非常に重要な役割を担っています。

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