イラク戦争の年表

イラク戦争の年表

イラク戦争は、2003年にアメリカを中心とした多国籍軍がイラクへの軍事侵攻を開始したことに始まる戦争です。この年表は、その開戦に至る経緯から、フセイン政権の崩壊、長期にわたる占領と抵抗、そして多国籍軍の撤退に至るまでの歴史を辿ります。

戦争前夜

イラク情勢は、1990年のクウェート侵攻（湾岸危機）に端を発する湾岸戦争後、国際連合による厳しい経済制裁と武装解除問題に揺れ動いていました。国連安全保障理事会はイラクに対する通商禁止措置を課し、後に「石油と食料交換計画」で制裁を一部緩和しました。しかし、国連の報告書は、この制裁下でイラク国民、特に子どもたちが深刻な苦境にあることを指摘。コフィー・アナン国連事務総長も、制裁が無辜の市民に犠牲を強いている現状に懸念を表明していました。

2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件は、国際情勢を大きく変えました。アメリカは「テロとの戦い」を宣言し、同年10月にはアフガニスタンへの攻撃を開始。ジョージ・W・ブッシュ大統領は2002年1月の一般教書演説でイラクを「悪の枢軸」と名指し、リチャード・チェイニー副大統領やトニー・ブレア英首相らは、イラクが大量破壊兵器（核兵器、化学兵器、生物兵器）を保有しており、迅速な対応が必要であると強く主張しました。これに対し、イラクは2002年11月に国連決議を受け入れ、4年ぶりに国連査察団による武器査察を受け入れましたが、アメリカは提出された武器申告書やその後の査察結果に対し不十分であると批判を続けました。

2003年に入り、アメリカはイラクが大量破壊兵器を隠し持っているとする証拠を国連安保理で提示（パウエル報告）しましたが、査察団は違反を示す決定的な証拠は見つからないと報告。世界各地で大規模な反戦デモが発生しました。アメリカとイギリスは国連安保理での新決議採択を目指しましたが、フランスなどが査察継続を主張し対立。最終的に、アメリカは国連の承認を得ることなく、単独での武力行使を決断。3月17日、ブッシュ大統領はサッダーム・フセイン大統領とその主要閣僚に国外退去を求める最後通告を発しました。

開戦と占領、そして抵抗の激化

最後通告の期限が切れた2003年3月20日、米英軍は「イラクの自由作戦」と称する空爆を開始し、地上部隊がクウェートからイラク領内へ侵攻、地上戦が始まりました。多国籍軍は比較的短期間でイラク国内を制圧し、4月9日には首都バグダードが陥落。フセイン政権は事実上崩壊し、5月1日にはブッシュ大統領が「大規模戦闘終結宣言」を行いました。

政権崩壊後、イラクは連合国暫定当局（CPA）による占領統治下に置かれました。アメリカ、イギリス、ポーランドなどの有志連合軍が地域ごとに治安維持を担当しましたが、治安状況は急速に悪化。特にスンナ派地域や一部シーア派地域では、旧政権関係者やイスラム過激派などによる激しい抵抗運動が展開されました。ファルージャなどでは大規模な掃討作戦が行われ、多くの犠牲者が出ました。また、アブグレイブ刑務所での捕虜虐待事件の発覚は、占領軍に対する国際的な批判を呼びました。

政治プロセスの面では、イラク統治評議会、暫定政権の発足を経て、2004年6月にはイラク暫定政権への主権移譲が行われ、有志連合軍は国際連合下の多国籍軍となりました。しかし、その後も治安は改善せず、爆弾テロや誘拐事件が頻発。特に、2004年10月には、開戦時の大量破壊兵器保有疑惑が誤りであったとするデュエルファー・リポートが提出され、開戦理由の正当性が改めて問われることとなりました。

2005年1月には戦後初の国民議会選挙が実施され、シーア派勢力が優位を占めました。新憲法草案の国民投票を経て、年末には2度目の国民議会選挙が行われ、正式政府樹立に向けた動きが進みました。しかし、シーア派とスンナ派間の宗派対立は深刻化し、2006年2月のアスカリ廟爆破事件を契機に、宗教抗争は内戦状態に近い様相を呈しました。この状況下で、多くの民間人が犠牲となり、その数は過去2年間を上回るペースとなりました。

多国籍軍の撤退と戦争の終結

治安の悪化と長期化する駐留に対し、有志連合各国では撤退の動きが見られました。スペイン、ホンジュラス、ニカラグアなどが早期に撤退を完了させ、日本も2006年7月に陸上自衛隊の派遣を終了しました。

一方、アメリカ軍は治安改善を目指し、2007年には増派を決定し、イラク治安部隊と連携した「法の執行作戦」を展開しました。ブッシュ政権末期にはイラクとの地位協定が発効。2009年に発足したオバマ政権は、イラクからの段階的な米軍撤退計画を進めました。2010年8月には戦闘部隊の撤退が完了し、戦闘任務の終結が宣言されました。そして、2011年12月には、治安維持や部隊育成を目的とした駐留部隊も全て撤退し、これによりイラク戦争は公式に終結しました。

イラク戦争による死者数は、推定で10万人から11万人を超える民間人を含む多くの犠牲者を出しました。また、多国籍軍側も数千人の死者を出しました。戦争はフセイン体制を崩壊させましたが、その後のイラクには宗派対立、テロの脅威、政治的混乱などの課題が残されました。

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