イリヤー・ムーロメツ

イリヤー・ムーロメツ：ロシア 叙事詩に輝く英雄

イリヤー・ムーロメツは、ロシアの口承叙事詩ブィリーナに登場する伝説的な英雄（ボガトィーリ）です。「ムーロムのイリヤー」という意味を持ち、その名は古都ムーロムに由来します。彼はキエフのウラジーミル公に仕える三勇士の一人であり、ブィリーナの中でも最大の英雄として語り継がれています。

物語の背景

イリヤーの物語は、10世紀末から11世紀初頭のウラジーミル1世の時代から、1380年のクリコヴォの戦いまでの史実を下敷きにしています。この時代、ロシアは様々な外敵との戦いを繰り広げており、イリヤーの物語は、そうした時代背景の中で生まれたと考えられます。

イリヤーの誕生と奇跡

イリヤーは、ムーロムの町から離れたカラチャロ村の農家に生まれました。預言者イリヤーの日に生まれたことからその名がつけられましたが、生まれつき手足が不自由で、30歳まで家から出ることができませんでした。しかし、ある日、3人の旅の老人が彼の家を訪れます。老人たちはイリヤーに声をかけ、薬を飲ませると、彼は立ち上がることができるようになりました。さらに、強大な力を得ましたが、その力が強すぎたため、老人はもう一度薬を飲ませ、力を調整しました。そして、正教のため、国を乱す者と戦い、弱い者を助けるためにこの力を使うことを約束させ、去っていきました。

巨人スヴャトゴルとの出会いと別れ

力を得たイリヤーは、キエフの都を目指して旅立ちます。その途中、巨人スヴャトゴルの妻サルイゴルカに誘惑されます。彼女の脅迫により、やむなく彼女の誘いに応じてしまったイリヤーでしたが、スヴャトゴルに見つかってしまいます。正直に真相を語ったイリヤーに感銘を受けたスヴャトゴルは、妻を追放し、イリヤーと兄弟の誓いを交わします。二人は旅を続けますが、スヴャトゴルは巨大な棺に捕らえられ、息絶えてしまいます。スヴャトゴルの身体から命の泡があふれ出し、彼はイリヤーにこの泡を身につけ、なめるよう頼みます。こうして、イリヤーはスヴャトゴルの力と勇気を受け継ぎました。

イリヤーの活躍

その後、イリヤーはチェルニーゴフの町を包囲していたバスルマンの軍勢を追い払い、ブルイニの森で人々を恐れさせていた盗賊、怪鳥ソロウェイを捕らえました。キエフに到着すると、ウラジーミル公に迎えられ、アリョーシャ・ポポーヴィチやドブルイニャ・ニキーティチといった他の英雄たちと親交を深めます。彼は国境を脅かす幽霊を退治し、その間にキエフが化け物イードリシチェ・ポガーノイェに乗っ取られると、乞食に身をやつして戻り、見事に打ち倒しました。

ある時、ウラジーミル公は宴を開く際にイリヤーを招待するのを忘れてしまいます。怒ったイリヤーは、矢を射て宮殿の尖塔などを破壊し、その金を使い酒場で宴会を開きました。ウラジーミル公が謝罪すると、彼は貧しい人々に3日間酒場を開放することを条件に仲直りをしました。

イリヤーの息子と最後の戦い

年老いたイリヤーの前に、強敵ボドソコリニクが現れ、互角に戦います。戦いの中で、ボドソコリニクがイリヤーの息子であると判明します。しかし、ボドソコリニクは父親に敵愾心を抱き、イリヤーを刺してしまいます。幸い、槍はイリヤーの身につけていた十字架に当たって逸れました。イリヤーはボドソコリニクを投げ飛ばし、彼を倒してしまいます。

その後、ママイ率いるタタールの大軍がキエフを襲撃しました。イリヤーは単身ママイの陣に乗り込み、ママイを殺害します。そして、5日間戦い続け、勝利を収めます。しかし、味方が慢心した言葉を吐いたため、敵の死者が生き返り、襲い掛かってきました。6日間戦い続けましたが、敵は増え続け、イリヤーたちはこれを天軍だと悟りました。後悔の祈りを捧げると、天軍は地に倒れ伏し、勇士たちは全員石像となってしまいました。

イリヤー・ムーロメツが残した物語

イリヤー・ムーロメツの物語は、その勇猛さと正義感、そして困難に立ち向かう不屈の精神を伝えています。彼は単なる英雄ではなく、人間的な弱さや葛藤も持ち合わせており、その点が多くの人々の共感を呼ぶのでしょう。イリヤーの物語は、ロシアの文化や歴史を理解する上で欠かせない重要な要素の一つです。

外部リンク

映画「イリヤー・ムーロメツ」（1956年）YouTube
Encyclopedia Mythica
Russian Fairy Tales
The evolution of Christianity
Pictures of Muromets （ロシア語）
Gliere and his Third Symphony Ilya Murometz

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