インタグリオー

インタグリオー：日本サラブレッドの礎を築いた種牡馬

1899年生まれのインタグリオーは、日本におけるサラブレッドの父として知られています。その名は宝石の沈み彫りを意味する「インタリオ」に由来し、1907年、三菱財閥傘下の小岩井農場がイギリスから輸入した種牡馬です。小岩井農場は、明治政府の産馬奨励政策を受け、農場存続のためサラブレッド生産に乗り出しました。当時、イギリスから優良なサラブレッドを大量に輸入することは非常に稀なことであり、小岩井農場の取り組みは世界的な規模であったと言えるでしょう。

1908年の馬券発売禁止と、政府の生産推奨馬の変更によって、日本のサラブレッド業界は不況に見舞われました。1909年のセリでは、小岩井農場産のサラブレッドはほとんどが売れ残るという苦境に陥りましたが、その中でもインタグリオーの産駒は後に大きな成功を収めます。ラングトンによる圧勝劇や、コイワヰの45勝という驚異的な記録は、インタグリオー産駒の潜在能力の高さを示すものとなりました。

圧倒的な産駒の活躍

インタグリオーの産駒は、競馬界に旋風を巻き起こしました。レッドサイモンは、日本産馬として初めて外国産馬を破り、帝室御賞典を2勝という偉業を達成しました。この記録は80年以上破られず、1988年のタマモクロスまで待つことになります。また、インタグリオー産駒は、1912年から4年間で帝室御賞典を4勝、優勝内国産馬連合競走を5勝と、当時の主要競走を席巻しました。優勝内国産馬連合競走は一度しか出走できないため、この勝利回数は並外れたものです。

その後も、ペットレルやクヰンマリーといった産駒が帝室御賞典や優勝内国産馬連合競走を制覇し、クヰンマリーは繁殖牝馬としても優秀で、母娘4代にわたって重賞勝利という記録を残しました。晩年は産駒の活躍が減少しましたが、1927年の帝室御賞典を制したシノグが最後の輝きとなりました。多くの種牡馬となった産駒もいましたが、太平洋戦争前にはその血統は途絶えてしまいました。

緻密な血統管理：系統繁殖の成功

インタグリオーは、当時流行していたセントサイモンの直系ですが、ハンプトン、ベンドア、ストックウェル、メルボルンといった他の有力種牡馬の血統は持ち合わせていませんでした。この点が、小岩井農場の戦略の巧妙さを示しています。セントサイモンの近親交配による品種改良を進める上で、他の血統の混入によるリスクを回避できたのです。これは、小岩井農場が系統繁殖（ラインブリード）の概念を理解し、実践していたことを示唆しています。

礎となった20頭の繁殖牝馬

小岩井農場は、インタグリオーと共に20頭の繁殖牝馬をイギリスから輸入しました。初期の小岩井農場産牝馬は、ほとんどがインタグリオーを父に持ち、優秀な輸入牝馬を母とする、当時としては優れた血統を持っていました。小岩井農場は、生産した牝馬を売却することで、優れた血統を全国に広めました。

これらの繁殖牝馬の子孫は、現在でも日本の競馬界で活躍しており、その影響は計り知れません。特に、ビューチフルドリーマー、アストニシメント、フラストレート、フロリースカップといった牝馬の子孫には、数々の名馬が名を連ねています。

第三ビューチフルドリーマー系: メイヂヒカリ、シンザン、タマミ、オーテモン、ジツホマレなど、多くの名馬を輩出。
第二アストニシメント系: クリフジ、テンモン、オーカン、メジロマックイーンなど、数々の重賞勝ち馬を輩出。メジロマックイーンの子孫には、ドリームジャーニー、オルフェーヴル、ゴールドシップなどがいる。
第五アストニシメント系: チトセホープ、ケンホウ、オフサイドトラップなど、活躍馬多数。
第三フラストレート系: トキツカゼ、トウメイ、ホウヨウボーイなど、多くの名馬が誕生。
* 第四フロリースカップ系: タチバナ、アスパイヤリング、フロラーカツプ、シラオキなど、帝室御賞典を制した馬や、スペシャルウィーク、ウオッカといった活躍馬を輩出。

インタグリオーとその産駒、そしてその子孫は、日本の競馬史に大きな足跡を残しました。その血統は、現代の日本のサラブレッドの基礎を築き、今もなおその影響を競馬界に与え続けています。 小岩井農場の先見性と、インタグリオーという種牡馬の偉大さを改めて認識させられます。

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