インド陸軍

インド陸軍（正式名称：भारतीय थलसेना、Bhāratīyan Thalasēnā、インディアン・アーミー）は、インド軍を構成する主要な軍種のひとつであり、その中核を成す陸上部隊です。かつて存在した英印軍を起源とし、インドが独立を達成した1947年に正式に設立されました。現在、インド軍の中で最も大規模な組織として機能しています。

歴史的背景

その歴史は、1776年に東インド会社によって創設された軍事部門に遡ります。1833年には東インド会社の事務機構再編の一環として軍事部門も整備され、1857年には「英印軍」として正式に発足しました。1895年には、ベンガル軍、マドラス軍、ボンベイ軍といった植民地各地の部隊が統合され、管理上の便宜からパンジャーブ、ベンガル、マドラス、ボンベイの四つの部隊に再編されました。英印軍はイギリス領インド帝国の軍隊として、そして同時にイギリス陸軍の一部として、インド周辺での英緬戦争やアフガン戦争に参加しただけでなく、第一次世界大戦や第二次世界大戦では世界各地の戦線に投入され、その活動範囲は広範に及びました。

第二次世界大戦終結後、インドの独立に伴い、インド陸軍はイギリス陸軍の指揮下を離れ、新たな国家の防衛組織としての道を歩み始めました。

戦闘経験と国際貢献

独立後のインド陸軍は、幾多の重要な軍事作戦や紛争に関与してきました。第一次印パ戦争に始まり、ハイデラーバード併合のためのポロ作戦、ポルトガル領インド解放のためのゴア解放、中印国境紛争、第二次・第三次印パ戦争、シアチェン紛争、スリランカ内戦への介入、そしてカールギル紛争など、その実戦経験は非常に豊富です。カシミール地方の険しい高山地帯から、低地の砂漠や湿地帯、さらにはムンバイ同時多発テロのような都市部での対テロ作戦まで、様々な環境下での作戦遂行能力を有しています。また、国際連合による平和維持活動（PKO）にも極めて積極的に参加しており、これまでにキプロス、レバノン、コンゴ、アンゴラ、カンボジア、ベトナム、ナミビア、エルサルバドル、リベリア、モザンビーク、ソマリアといった国々で活動実績があります。朝鮮戦争時には、国連軍の一員として医療支援を行いました。近年では、2018年11月に日本の陸上自衛隊とミゾラム州バイレンテで初の共同訓練を実施し、国際的な連携も深めています。

任務と役割

インド陸軍の主要な任務は、インド国内における活動にあります。最も重要な目的は、国外からの軍事的な侵攻やその他の脅威からインド共和国の国家主権と領土の一体性を守り、防衛を確固たるものにすることです。同時に、国土と国民の安全と平和を維持することもその大きな役割です。さらに、国内で発生した自然災害に対する救援活動や人道支援、そして上述の通り国連の平和維持活動への参加も重要な任務に含まれています。

組織と人員

インドの憲法には徴兵に関する条項が存在しますが、インド陸軍は志願制を採用しています。約115万人の現役兵と約96万人の予備役を擁し、その兵力規模は世界第2位に位置します。近年、中華人民共和国の軍拡やパキスタンとの国境問題を背景に、陸軍の近代化と軍備増強が進められています。特に、中国との国境に近い北東部では新たに山岳師団の編成が進められており、さらに2個山岳師団からなる山岳打撃軍の新編計画も進行中です。これらの計画により、2017年までに約10万人規模の兵力増加が見込まれていました。

組織構造において、インド軍全体の法律上の最高司令官は大統領ですが、事実上の指揮権はインド政府の国防大臣が有しています。国防省がインド軍全体の管理・運営を担当し、インド陸軍の最高指揮官は陸軍長官（陸軍参謀長を兼任）が務めます。連隊編成においては、兵士のカースト、宗教、出身地域を考慮に入れることで、部隊内の結束を強め、連隊間の健全な競争意識を醸成する独自の方式を採用しています。

陸軍全体は、戦略的な方面軍である7つのコマンド（それぞれ2個以上の軍団で構成）と、その下に位置する13個の軍団（それぞれ複数の師団を指揮下に入れる）を中心に編成されています。師団数は合計37個で、RAPID軽機械化歩兵師団、機甲師団、歩兵師団、山岳師団、砲兵師団といった多様な種類が含まれます。また、防空旅団、地対空ミサイル連隊、独立機甲旅団、独立砲兵旅団、独立歩兵旅団、パラシュート旅団、工兵旅団など、様々な独立旅団が部隊構成を補強しています。主要なコマンドには、中央コマンド、東部コマンド、北部コマンド、南部コマンド、西部コマンド、南西コマンド、訓練コマンドがあり、それぞれインド全土に配置され、特定の地域や任務を管轄しています。

主要装備

インド陸軍は、近代化を推進しており、多種多様な装備を保有しています。主力戦車は約3700両、戦闘車両は5000両以上、火砲は6700門以上を数えます。これにはアージュン、T-90、T-72といった戦車が含まれます。火砲としては、M777やFH77榴弾砲などが配備されています。ミサイル戦力も充実しており、アーカーシャやS-300といった地対空ミサイル、ブラモス巡航ミサイル、プラハールやプリットヴィー、シャウリャ、アグニといった弾道ミサイル、ピナカ多連装ロケットシステムなどを運用しています。歩兵火器も多様で、ジャベリン、ミラン、ナグといった対戦車ミサイル、イグラ携帯式防空ミサイルに加え、INSAS、AK-47、SIG716iなどの自動小銃、各種機関銃、狙撃銃、短機関銃、拳銃などが使用されています。陸軍航空隊は、戦術輸送や偵察用にHALドゥルーブなどの小型ヘリコプター約158機を運用しています。無人攻撃機もハーピー、ヘロンなどを配備しています。

このように、インド陸軍は、広大な国土と多様な地形、そして複数の国境を抱えるインドの安全保障において、極めて重要な役割を担っています。

もう一度検索