インノケンティウス8世 (ローマ教皇)

インノケンティウス8世：堕落と権威の象徴

15世紀末、ローマ教皇として君臨したインノケンティウス8世（在位1484年-1492年）は、その治世において教会の権威と堕落が複雑に絡み合った姿を体現しました。本名ジョヴァンニ・バッティスタ・チーボとしてジェノヴァに生まれた彼は、聖職者としての道を歩みながらも、世俗的な欲望と権力闘争に深く関与しました。

生涯と権力掌握

チーボは若き日をナポリ王国の宮廷で過ごし、パドヴァとローマで教育を受けました。司祭に叙階された後、ニコラウス5世の異母弟の随員となり、パウルス2世の下でサヴォナの司教位を得ます。1473年には、シクストゥス4世の甥であるジュリアーノ・デッラ・ローヴェレ（後のユリウス2世）の後押しで枢機卿に選出され、1484年8月29日にシクストゥス4世の死後、教皇の座を継承しました。このコンクラーヴェは、党派間の激しい駆け引きと争いに終始しました。

異端審問と魔女狩りの激化

教皇に即位したインノケンティウス8世は、キリスト教国に対し異端討伐のための連合軍結成を呼びかけました。しかし、オスマン帝国のバヤズィト2世からの財政的支援と、聖槍の贈呈という政治的な駆け引きの中で、異端討伐の真意は曖昧になりました。一方で、1484年12月5日の回勅「スンミス・デジデランテス」を発布し、ドイツにおける魔術師や魔女の存在を激しく非難しました。さらに1487年には「魔女への鉄槌」を著し、魔女狩りの動きを加速させました。同じく1487年、アラゴン王フェルナンド2世の推薦を受け、トマス・デ・トルケマダをスペイン異端審問所長官に任命し、異端審問を政治的に利用しました。

レコンキスタの完成と「カトリック王」

インノケンティウス8世の治世で特筆すべき出来事の一つが、1492年1月のグラナダ陥落でした。レコンキスタの完成はバチカンでも大々的に祝われ、イスラム教徒の奴隷100人が教皇に献上されました。教皇はフェルナンド2世に「カトリック王」の称号を授与し（後にアレクサンデル6世がイサベル1世にも同称号を授与）、両王によるスペイン統一を祝福しました。

堕落した私生活とネポティズム

インノケンティウス8世は1492年6月25日に死去しましたが、彼が残したものは教会の権威を著しく傷つけるものでした。「多くの悪い息子達が生まれ、娘達も生まれた。まさにこの人こそローマの父である」という言葉は、彼の贅沢な生活と乱れた私生活を皮肉ったものです。ネポティズム（親族登用主義）は根深く、教皇は自身の子供たちに多くの特権を与えました。彼の庶子の1人であるフランチェスケット・チーボは、フィレンツェ共和国の事実上の支配者であったロレンツォ・イル・マニフィコの娘マッダレーナと結婚し、この縁談を通じてロレンツォの次男ジョヴァンニ（後のレオ10世）が枢機卿に任命されました。この行為は、当時の教会の腐敗を象徴するものでした。ジロラモ・サヴォナローラは、このような教皇の堕落した生活を厳しく批判しました。

まとめ

インノケンティウス8世の治世は、教会の権威が世俗的な権力と欲望によって堕落した時代でした。魔女狩りの激化、異端審問の政治利用、そして教皇自身の乱れた私生活は、後世の歴史家によって厳しく批判されています。彼の生涯は、教会の腐敗と、その権威が失墜していく過程を示す重要な例として、歴史に深く刻まれています。

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