ウィリアム・オートレッド

ウィリアム・オートレッド（1574年 3月5日 - 1660年 6月30日）は、17世紀イングランドの数学者です。彼は聖職者としてキャリアを積む傍ら、余暇の全てを数学の研究に捧げたことで知られています。ジョン・ネイピアによる対数の発明、そしてエドマンド・ガンターによる対数尺の考案という先行研究を踏まえ、オートレッドは2つの対数尺を組み合わせることで、乗算や除算をより簡便に行える計算尺を1622年に発明しました。さらに、彼は現代でも一般的に用いられる乗法の記号「×」や、三角関数の正弦を示す「sin」といった表記法を考案するなど、数学記号の発展にも重要な役割を果たしました。

生涯

オートレッドはバッキンガムシャーのイートン（現在はバークシャーの一部）で生まれました。ケンブリッジ大学のキングス・カレッジで学び、後にフェローとなります。しかし、聖職に叙階されシャルフォードで聖職禄を得たことから、1603年頃にケンブリッジ大学を離れることになります。1610年頃にはサリーのギルフォード近郊にあるオルベリーの牧師館に迎えられ、そこに居を構えました。1628年頃にはアルンデル伯爵の依頼でその息子に数学を教えることになります。

オートレッドは当時の著名な学者たちと活発な交流を持ち、手紙のやり取りを通じてウィリアム・アラバスター（詩人、劇作家）、チャールズ・キャベンディッシュ卿、ウィリアム・ガスコイン（科学者）らと意見を交わしました。また、ヘンリー・ブリッグスやガンターとも親交があり、彼らが所属していたグレシャム・カレッジとも定期的に連絡を取り合っていました。

大学に所属しないながらも、彼は自宅で私塾を開き、多くの才能ある数学者を育てました。リチャード・ドラマン、ジョナス・ムーアといった高名な数学者たちが彼の教えを受けています。セス・ワードはオートレッド宅に半年間滞在し、最新の数学を学びました。物理学者のチャールズ・スカーバラもオルベリーで学んでいます。ジョン・ウォリスやクリストファー・レンもオートレッドと文通しており、彼から学んだ生徒の中には、後に彼の著作の出版を手助けしたロバート・ウッドもいます。

計算尺の発明を巡っては、オートレッドと彼の弟子であるドラマンとの間で優先権を巡る論争が勃発しました。オートレッドは理論が実践に先行すべきだと主張しており、数学の教授法についても両者の見解は異なっていました。彼は1660年に亡くなるまで聖職者としての務めを続けました。彼の死のおよそ1ヶ月後には、チャールズ2世による王政復古が実現しています。

オカルトへの関心

オートレッドは合理的な数学研究の傍ら、錬金術や占星術といったオカルトにも関心を寄せていたとされています。彼のオカルト活動を直接示す証拠は少ないものの、同時代人の証言がいくつか残されています。伝記作家ジョン・オーブリーによれば、オートレッドは占星術に対して完全に懐疑的ではなかったようです。著名な占星術師ウィリアム・リリーは自伝の中で、1646年にオートレッドが議会によって聖職禄を剥奪されそうになった際に自身が助けたと主張していますが、実際には法律家のブルストロード・ホワイトロックが援助したと考えられています。また、オーブリーは、エリアス・アシュモールがフリーメイソンの加入式にオートレッドが出席したという話に言及しており、その話の起源はトマス・ド・クインシーであると伝えています。ジョン・イーヴリンは1655年8月の日記に、オートレッドが千年王国説（至福千年信）のような見解を述べたことを記録しています。

主要な業績

オートレッドは複数の重要な数学書を著しました。中でも1631年に出版されたラテン語の著書『数学の鍵（Clavis Mathematicae）』は古典として版を重ね、アイザック・ニュートンを含む後世の数学者たちに利用されました。この本は当時の代数学の知識を簡潔にまとめることを目指したもので、フランソワ・ビエトの記号代数を発展させ、より多くの記号を用いることで数学表現の簡潔化を追求しました。乗法の「×」だけでなく、比率を表す「::」といった記号など、彼は独自の記法を積極的に導入しています。この著作は出版から約15年後に広く知られるようになり、ちょうど数学が高等教育において重要性を増していく時期と重なりました。1652年版にはジョン・ウォリスが序文を寄せ、自身の暗号理論の知識を披露しています。他の版では、オートレッドが建築家クリストファー・レンの才能を賞賛する記述も見られます。

また、1632年には航海術に関する論文『比例円盤（Circles of Proportion）』を著し、その中で三角法や日時計を用いた計時法について述べています。没後には『数学小品集（Opuscula Mathematica）』が1676年に出版されました。オートレッドは、二つのリングから成る携帯型日時計も考案しています。

計算尺
オートレッドの計算尺は、ガンターが一つの対数尺とコンパスを使って計算する方法を改良したものです。ガンターの方法では、尺上の距離をコンパスで測り取り、それを別の位置に移して目盛りを読み取る必要がありましたが、オートレッドは二つの対数尺を互いにスライドさせることで、より直感的に計算できるようにしました。彼が1620年代に考案した計算尺は円形でしたが、このアイデアを印刷物として最初に公表したのはオートレッド自身ではなく、1630年にドラマンによるものでした。今日我々が知るような、中央部がスライドする真っ直ぐな形状の計算尺が登場するのは、1650年代以降のことです。

日時計
オートレッドが発明した二重リング型の携帯用日時計は、現在では「オートレッド型日時計」と呼ばれています。この日時計の簡潔な解説は、数学遊戯に関する先駆的著作である『Récréations Mathématiques』（1624年）の1653年版（英語訳）に追記されています。ただし、この翻訳自体にはオートレッドへの言及はありません。

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