ウィリアム・チェンバーズ (建築家)

サー・ウィリアム・チェンバーズ：18世紀イギリス建築の巨匠

サー・ウィリアム・チェンバーズ (1723年2月23日 - 1796年3月8日) は、イギリス建築史に輝く名を残した建築家です。彼の名は、ロンドンの壮麗なサマセット・ハウスや、ロンドン近郊キューガーデンに建つ東洋風のグレート・パゴダを通して、広く知られています。単なる建築家以上の存在として、チェンバーズはロイヤル・アカデミーの創設メンバーにも名を連ね、18世紀イギリス建築に多大な影響を与えた一人と言えるでしょう。

波乱に満ちた若き日々：東洋への旅と建築への転身

スウェーデン生まれのチェンバーズは、スコットランド系商人の父を持ちました。裕福な家庭環境で育ち、イギリスで教育を受けた後、16歳でスウェーデン東インド会社に入社。インドや中国、広東へと渡航し、1749年までの約10年間を東洋で過ごしました。この間、彼は中国の建築様式や文化を深く研究し、その成果は1748年に本国へ送られた詳細な記録として結実します。

この記録は当時、イギリスで大きな反響を呼びました。帰国後、彼は王太子フレデリック・ルイスに謁見する機会を得ます。王太子は東洋趣味、特に中国趣味に強い関心を抱いており、そのキューガーデンを中国風の庭園に改装する計画を進めていました。チェンバーズは、この計画に深く関与したと伝えられていますが、彼自身は、この際に「孔子廟」や「アルハンブラ宮殿」の設計に携わったという噂を否定しています。

この王太子との出会いをきっかけに、チェンバーズは建築家としての道を歩むことを決意。1749年に東インド会社を退職し、ヨーロッパ各地を巡り建築と造園を学びました。パリではエコール・デ・ボザールで建築を学び、著名な建築家たちとの交流も深めています。また、ローマ滞在時には、ピラネージのアトリエに近くに住んでいたことから、彼をはじめとする著名な画家や建築家たちと親交を深めました。

王室建築家への道：サマセット・ハウスと『公共建築論』

1755年、チェンバーズはロンドンに移住します。既に高い名声を得ていた彼は、1757年には王太子ジョージと妃オーガスタの建築教師に任命され、王室の庇護の下、順調に出世の階段を駆け上がります。1757年には中国に関する書物を出版、1758年にはキューガーデンの監督官となり、園内に特徴的なパゴダを建設しました。その後も、王室付建築家、建築監査官へと昇進し、1768年にはロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの初代収入役に就任しました。

1770年には、スウェーデン王より北極星勲位を授与され、ジョージ3世より騎士の称号を与えられました。そして1775年、彼の代表作であるサマセット・ハウスの建設を任され、1782年には建築総監に就任。晩年は、サマセット・ハウスの建設と、彼の建築理論をまとめた著作『公共建築論』（Treatise on Civil Architecture）の改訂、及びその補足版『公共建築装飾論』の執筆に専念しました。

新古典主義とピクチャレスク：チェンバーズの建築思想

チェンバーズは、建築家としてだけでなく、著作や弟子たち、そして官僚としての地位を通して、後世に大きな影響を与えました。彼の建築様式は、新古典主義に基づきながらも、イギリスのパッラーディオ主義を取り入れた折衷的なものでした。初期の作品にはロマン主義的な要素も見られ、晩年にはピクチャレスクという概念を建築に取り入れるようになりました。ピクチャレスクとは、絵画のような視覚的効果を重視した庭園様式のことです。キューガーデンでの仕事は、ピクチャレスク庭園の先駆けとなりました。

しかし、チェンバーズはライバルであったロバート・アダムのような華やかさや人気は得られませんでした。アダムは様々な建築様式を軽やかに取り入れましたが、チェンバーズはより厳格で学術的なアプローチを貫きました。この違いが、彼ら両者の成功に差をもたらした要因の一つと考えられています。また、ピクチャレスク庭園に関して、ウィリアム・ソースンと論争を起こし、自身の庭園理論を擁護しました。

主要作品

皇太子フレデリックの霊廟計画案 (1752年設計)
ヨークシャーのヘアウッド・ハウス計画案 (1755年設計)
マリーノのカジノ (ダブリン、1757年起工・1769年完成)
ダディングストン邸宅 (エディンバラ、1762年起工・1767年完成)
* サマセット・ハウス (ロンドン、1776年起工・1786年完成)

サー・ウィリアム・チェンバーズは、その建築作品と理論を通して、18世紀イギリス建築に大きな足跡を残しました。彼の作品は、厳格さの中に優美さを持ち、新古典主義とパッラーディオ主義、そしてピクチャレスクという異なる様式が融合した独特の魅力を放っています。

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