ウォークスルーバン

ウォークスルーバン：運転席と荷室を自由に往来できる商用車の進化

ウォークスルーバンは、運転席から荷室へ、車外に出ることなくスムーズに移動できる構造を持つ商用車です。郵便物や宅配便の集配など、頻繁な乗降と荷物の仕分け作業が必要な業務において、作業効率の向上に大きく貢献する設計となっています。

ウォークスルーバンの特徴

ウォークスルーバンの最大の特徴は、その名の通り、運転席と荷室の間を自由に移動できる点です。この設計により、荷物の積み下ろしや仕分け作業を車内で行うことができ、作業時間を大幅に短縮できます。そのため、荷室は立ったまま作業できるよう、天井の高い設計が一般的です。

また、頻繁なドアの開閉を考慮し、運転席ドアには引き戸や折戸が採用されることが多く、軒先や街路樹との干渉を防ぎ、安全性を高めています。

各国のウォークスルーバン

ウォークスルーバンの設計思想は、地域によって異なります。

欧州型

欧州では、フランスやイタリアを中心に、前輪駆動（FF）のプラットフォーム型シャーシを採用したものが一般的です。乗用車に近い設計思想で、運転席と荷室の床は低く、乗り心地や操縦安定性に優れています。そのため、乗用車や貨客兼用車として使用されるケースもあります。しかし、頻繁な乗降作業のしやすさという点では、米国型にやや劣る面があります。

近年では、安全性の観点から運転席と荷室の間に隔壁が設置される車種が増え、完全なウォークスルー構造は減少傾向にあります。そのため、「ウォークインバン」と呼ばれることもあります。代表的な車種としては、シトロエン・タイプHやフォルクスワーゲン・タイプ2などが、その革新的な設計で知られています。また、欧州メーカー各社は、コスト削減のため共同開発やOEM供給を通じて車種を共通化することが多く見られます。

アメリカ型

北米では、はしご型フレームを採用したものが一般的で、床が高いのが特徴です。現金輸送車や緊急車両、移動販売車など、様々な用途で使用されています。欧州型とは異なり、乗用車として使用されることはほとんどありません。グラマン・オルソンのUPS向けパッケージカーなどが代表的な例です。

日本型

日本では、1952年のトヨペット・ルートバンが最初期の例と考えられています。その後、1960年代後半から宅配便事業者のニーズの高まりとともに、1.5トン～2トン級トラックをベースとしたウォークスルーバンが開発・普及しました。トヨタ・クイックデリバリーなどが代表的な車種です。

また、1980年代にはダイハツ・ミラ・ウォークスルーバンが登場し、軽自動車規格におけるウォークスルー構造を実現することで大きな話題となりました。そのコンパクトさと使い勝手の良さから人気を博しましたが、軽自動車規格の変更に伴い生産終了しています。近年では、EV化も進み、日野・デュトロ Z EVなど、新たなウォークスルーバンが登場しています。

マイクロバス派生型

マイクロバスをベースに開発されたウォークスルーバンもあります。メルセデス・ベンツのL319やT2、トヨタ・コースタービッグバンなどが代表例です。しかし、バスと共通の設計のため、専用設計のウォークスルーバンと比較すると、床が高かったり、ウォークスルー性や荷役性に劣る場合があります。

まとめ

ウォークスルーバンは、その効率的な設計と様々なバリエーションから、今後も様々な分野で活躍が期待される商用車です。各国の設計思想や歴史、そしてそれぞれの用途に合わせた進化を理解することで、このユニークな車両設計の奥深さを知ることができます。今後の技術革新によって、さらに多様なウォークスルーバンが登場する可能性もあります。

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