ウクライナ正教会 (モスクワ総主教庁系)

ウクライナ正教会（モスクワ総主教庁系）とは

ウクライナ正教会（モスクワ総主教庁系）は、ウクライナにおける正教会のひとつです。正式名称は「ウクライナ語: Українська православна церква Московського патріархату, УПЦ-МП」で、「自治正教会の広い権を有する自主管理教会」として、ロシア正教会モスクワ総主教庁との関係を維持しています。ただし、ロシア正教会とは区別され、ロシア連邦政府も同教会をウクライナ正教会と呼んでいます。

正教会は原則として1カ国に1つの教会組織を置きますが（ロシア正教会、ギリシャ正教会、ルーマニア正教会、日本正教会など）、これら各国の正教会は同じ信仰を共有しています。

名称について

2018年12月に成立した「ウクライナ正教会」（OCU）と区別するため、「ウクライナ正教会（モスクワ総主教庁系）」（UOC-MP）と表記されることが一般的です。

しかし、教会側は自身がウクライナ唯一の合法的な正教会であると主張し、単に「ウクライナ正教会」と自称しています。ウクライナの国家宗教委員会にも「ウクライナ正教会」として登録されていますが、2018年12月20日、ウクライナ議会は名称変更を強制する決議を可決しました。これに対し、教会側は抗議しています。

歴史

ウクライナ正教会（モスクワ総主教庁系）は、ロシア正教会所属のエクザルフ教区ウクライナ正教会を起源とし、988年のウラジーミル1世によるルーシの洗礼からの直接的な系譜を主張しています。

規模と信者数では、新生ウクライナ正教会の前身であるウクライナ正教会・キエフ総主教庁が上回りますが、ウクライナ正教会（モスクワ総主教庁系）は主要な正教会の建物を多数保持し、ウクライナの東部と南部で優勢です。

2008年時点で42の主教区、58人の主教、8516人の司祭、443人の輔祭がいました。1992年に府主教ボロジミルが「キエフおよび全ウクライナの府主教」の称号で首座主教に着座し、2014年7月に永眠。同年8月にオヌフリイが後任として着座しました。

2018年10月11日にコンスタンディヌーポリ総主教庁がキエフ総主教庁の独立を承認するまで、他の主要な正教会から教会法上の合法性を承認された唯一の教会であり、キエフ府主教の公式な座所はキエフ・ペチェールシク大修道院にありました。

ウクライナ正教会（OCU）独立を巡る情勢

ウクライナ正教会（OCU）の独立を承認したコンスタンティノープル総主教庁に対し、ロシア正教会モスクワ総主教庁は全面的な断交を宣言。この問題は、世界中の正教会を巻き込んだ深刻な対立に発展しています。

2022年ロシアのウクライナ侵攻の影響

ロシア政府を擁護する発言を繰り返すモスクワ総主教キリル1世は、ソ連崩壊前にKGBのエージェントだったことが判明しています。亡命したワシリー・ミトロヒンは「モスクワ総主教庁はロシアの国家機関である」と指摘し、ロシアの諜報機関の前衛組織として機能していると述べています。

ロシア総主教庁に忠誠を誓うUOC-MPもロシアの諜報機関と連携し、資金提供を受けていたとされています。2014年のマイダン革命以来、禁止を求める声がありましたが、2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻後、UOC-MPの教会や修道院からロシア・ロシア軍への協力の証拠が発見され、国内世論はUOC-MPの禁止を強く望むようになりました。

12月2日、ゼレンスキー大統領は「ロシア系宗教団体を禁止し、多くの親モスクワ派主教に制裁を課す」という国家安全保障・国防会議の提案を承認する大統領令に署名しました。

戦災被害

ロシア軍の攻撃により、モスクワ総主教庁系（UOC-MP）の多数の小教区や修道院がウクライナ正教会（OCU）への帰属を選択しました。学術プロジェクト「Religion on Fire」の調査によると、総主教庁系の156の建物が破壊・損傷の被害を受けています。OCUの建物と数えられているものの中には、砲撃によりUOC-MPを離れた教会も含まれています。

モスクワ総主教庁系教会への反発

モスクワ総主教庁系正教会（UOC-MP）をウクライナから追放する法案がウクライナ議会に提出され、ウクライナ人の過半数が支持しましたが、議長は「この法案は戦争中は検討されない」と述べました。

ウクライナ各地の市議会がUOC-MPの活動を禁止する決議を行い、司祭たちは汎正教会の法廷に「キリル総主教に対する訴訟」を求める署名を集めました。キーウ（キエフ）府主教区のオヌフリー・ベレゾフスキー大主教はプーチン大統領に停戦を要請し、エボロジー大主教は司祭たちにキリル総主教のための祈りをやめるよう指示しました。

2022年5月12日、教会会議はウクライナに対するロシアの軍事侵略を非難し、ウクライナ軍を支持することを明言しました。一方で、ウクライナ正教会（OCU）の独立承認がロシアの侵略の理由のひとつであると述べたことに対し、OCU側は非難しました。

同月27日には、UOC-MPは「ウクライナ正教会の完全な独立」を宣言しましたが、モスクワ総主教区からの独立とはしていません。

キーウ国際社会学研究所の世論調査によると、UOC-MPへの支持は大幅に縮小しています。

ウクライナ各地の治安措置

2022年11月以降、キエフ・ペチェールスク大修道院などで治安措置が実施され、親ロシア文学や現金などが押収されました。ザパルカッチャ州の女子修道院でもプロパガンダ文献が発見されています。

2023年1月1日、ウクライナ文化省はキエフ・ペチェールスク大修道院の2つの施設のリース契約を延長しないことを決定しました。

聖職者の摘発

ロシア軍への協力やロシアの侵略を支持したとして、複数の聖職者が拘束され、有罪判決を受けています。また、ウクライナ市民権を一時停止された聖職者もいます。

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