ウチョウラン

ウチョウランとは

ウチョウラン（学名：Ponerorchis graminifolia）は、ラン科に属する多年草の着生ランです。日本では本州、四国、九州の低山に自生しており、美しい紫色の花を咲かせます。その可憐な姿から山野草として人気がありますが、近年は園芸品種が広く流通しています。

特徴

草丈は5～20cm程度で、茎は斜めに伸びます。葉は細長い線形で、2～3枚が茎につきます。花は茎の先端に数個から数十個咲き、通常は紅紫色をしています。唇弁には濃い紅紫色の斑紋と距があります。花期は5～8月で、地下には小豆大から小指頭大の球根があります。夏に新球根を形成し、秋に地上部は枯れて球根だけで越冬します。

分布

ウチョウランは、朝鮮半島と日本に分布しています。日本では、本州（関東以西）、四国、九州の低山の岩場に自生しています。環境省のレッドリストでは絶滅危惧II類に指定されており、野生の個体数は減少しています。湿った岩壁の岩の隙間や、苔の中に生息し、霧のかかる場所ではイワヒバなどと共に見られます。

園芸化の歴史

昭和30年代までは一部の愛好家が栽培する程度でしたが、栽培方法が確立されると、地域変異や変異個体の収集が始まりました。昭和40年代には「ウチョウランブーム」が起こり、希少な個体が高値で取引されました。この過熱したブームによって野生個体が激減し、絶滅に近い状態になった個体群も多く存在します。その後、無菌播種による人工増殖技術が確立され、価格は暴落しました。現在では、一般的な花卉と価格差はほとんどありません。園芸品種改良も進み、毎年新しい品種が発表されていますが、野生では生存が難しいと思われるものも多く存在します。営利生産現場では、無菌播種によって大量増殖が行われ、安定的に市場に流通しています。

変種と地域個体群

ウチョウランには地域変異が多く、特に特徴的な3つの個体群が変種として記載されています。

クロカミラン (var. kurokamiana)

佐賀県黒髪山産の個体群で、ウチョウランの中で最も自生数が少ないとされています。草丈は15cm前後で、葉は細く、すっきりとした草姿が特徴です。花には紫色の斑点や紋様があり、美しい姿をしています。

サツマチドリ (var. micrpunctata)

鹿児島県下甑島産の個体群で、花期が遅く、6月下旬から8月上旬に咲きます。花は茎に密集して咲き、唇弁には細かな星状の斑紋があるのが特徴です。野生種としては耐暑性があり、栄養繁殖も容易であるため、園芸品種の交配親として利用されてきました。

アワチドリ (var. suzukiana)

千[[葉県]]南部の低山に分布する個体群です。花は基本種よりも小さいですが、着花数が多いのが特徴です。距は細く小さいです。栄養繁殖しにくいとされています。


その他にも、クロシオチドリ、ショウドシマウチョウラン、テバコチドリなど、多くの地域個体群が知られています。

これらの個体群は相互に交配可能で、交雑個体は栽培しやすくなる傾向があります。現在では、園芸品種では複雑な交配が繰り返され、起源が不明なものも多いです。純粋な野生系統は栽培が難しいため、積極的に生産されている例は稀です。

近縁種と種間交配

ウチョウランは、ヒナチドリと種間交配が可能で、交雑種はスズチドリと呼ばれます。自然界でも見られますが、基本的には不稔です。ヒナランとの交配も可能ですが、種子ができないため、胚珠培養によって交雑苗を育成した例があります。また、近年ではイワチドリ、アネチドリとの交配例も報告されています。

まとめ

ウチョウランは、美しい花を咲かせる山野草として、また園芸植物としても人気があります。しかし、かつての乱獲によって野生種は激減し、現在では栽培品種が主流となっています。変種や地域個体群も多く、園芸品種も多様化しており、今後もその動向が注目されます。

脚注

環境省レッドリスト：絶滅危惧II類 (VU)

参考文献

佐竹義輔、大井次三郎、北村四郎、亘理俊次、冨成忠夫 編『日本の野生植物 草本Ⅰ単子葉類』平凡社、1982年1月10日。ISBN 4582535011。
林弥栄『日本の野草』山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、2009年10月。ISBN 9784635090421。

関連項目

ウチョウランの個体変異と園芸品種

外部リンク

ウチョウラン
ウチョウランの標本（愛媛県と高知県との県境の寒風山で1982年7月30日に採集）
レッドデータブックあいち2009・ウチョウラン
Ponerorchis graminifolia （The Plant List）

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