ウマル・イブン・ハッターブ

ウマル・イブン・ハッターブ：イスラーム帝国の礎を築いたカリフ

ウマル・イブン・ハッターブ（592年頃 - 644年11月3日）は、イスラーム教における歴史上重要な人物であり、第二代正統カリフとして知られています。メッカの有力氏族であるクライシュ族出身の彼は、当初はイスラーム教の布教に反対していましたが、後に改宗し、その武勇と政治手腕でイスラーム共同体の発展に大きく貢献しました。

生い立ちとイスラームへの改宗

ウマルは、若き日から武勇に優れた人物として知られていました。ムハンマドがイスラーム教を開いた当初は、伝統的な信仰を守ろうとする立場から、ムハンマドの布教活動を迫害していました。しかし、妹と妹婿の改宗を機に、クルアーンの教えに触れ、自身もイスラームに改宗します。このウマルの改宗は、ムハンマドへの迫害を弱める大きな転機となりました。彼の優れた人望と影響力は、初期のイスラーム共同体の発展に不可欠な存在でした。

ヒジュラとマディーナでの活躍

622年、ムハンマドとムスリムたちがメッカからマディーナへ移住するヒジュラ（聖遷）が行われると、ウマルはマディーナでイスラーム共同体の有力者となりました。マッカとの戦争にも積極的に参加し、ムハンマドの親しい友人として重要な役割を果たしました。さらに、ウマルの娘ハフサがムハンマドの妻となったことは、彼とムハンマドの緊密な関係を示す重要な事実です。

アブー・バクルの後継者として

632年、ムハンマドの死後、イスラーム共同体では後継者の選出をめぐる争いが発生しました。ウマルは、アブー・バクルを後継者に推戴することで、混乱を収拾しました。アブー・バクルの死後、ウマルは第二代カリフに就任します。

カリフとしての統治

ウマルは、当初は「神の使徒の代理人の代理人」を名乗っていましたが、後に「信徒たちの指揮官」という称号を採用しました。これは、後のカリフの称号として定着することになります。彼の治世下では、イスラーム暦が制定され、クルアーンに基づいた法体系が整備されました。

アラブの大征服

ウマルのカリフ時代は、イスラーム帝国の急速な拡大という重要な時代でした。彼はシリア、イラク、エジプトなどへの遠征軍を送り出し、東ローマ帝国とサーサーン朝ペルシア帝国を相手に多くの勝利を収めました。ダマスカス、クテシフォン、アレキサンドリアといった重要な都市が征服され、イスラーム帝国の版図は大きく広がりました。征服地の統治には、非ムスリムへのジズヤ（人頭税）の徴収や、軍事的拠点としてのミスル（軍営都市）の建設などの政策が用いられました。また、中央集権的な行政機構であるディーワーンを設置し、財政と行政の効率化を図りました。

エルサレムとウマル憲章

638年、ウマルはエルサレムを征服し、エルサレム総主教ソフロニオスと会談しました。この会談の結果、有名なウマル憲章が制定され、エルサレムにおけるキリスト教徒の権利が保障されました。ウマルは神殿の丘で礼拝を行い、この場所がイスラーム教徒の聖地となる礎を築きました。

死とその後

644年、ウマルはマディーナのモスクで暗殺されました。暗殺犯は、ペルシア人の奴隷とされています。彼の死後、後継者を選ぶシューラー（協議会議）が開かれ、ウスマーン・イブン・アッファーンが第三代カリフに選出されました。

宗教勢力における評価

スンナ派においては、ウマルは優れた政治家であり、イスラーム共同体の発展に多大な貢献をした人物として高く評価されています。一方、シーア派においては、アブー・バクルとともに、アリーの正当なカリフとしての地位を奪った人物と見なされ、批判的な評価がなされることもあります。

ウマル・イブン・ハッターブは、イスラーム教の歴史において非常に重要な人物であり、彼の治世はイスラーム帝国の基礎を築いた重要な時代でした。彼の功績と業績は、現代においても高く評価されています。

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