エスナ
エジプトのルクソールから南へおよそ55キロメートル、ナイル川の西岸に位置するエスナは、古くから人々の営みがあった歴史的な町です。古代エジプト時代にはイウニトやタ＝セネト、ギリシア時代にはラトポリス、ポリス・ラトンなどと呼ばれ、ラテン語ではラトとして知られていました。
特に「ラトポリス」という名称は、この地域に豊富に生息していた大型魚、ナイルパーチ（学名：Lates niloticus）に由来すると考えられています。ナイル川に棲む多くの魚の中でも最大級のナイルパーチは、古代エジプトにおいて特別な意味を持ち、彫刻のモチーフとされることも多くありました。時には女神ネイトの象徴として、王権や神性を示す卵形の盾や環で囲まれて描かれ、神聖視されていたことがうかがえます。この魚は生贄として捧げられ、町の西方にある墓地に丁重に埋葬されていました。
ラトポリスの主要な守護神は、創造神クヌム、戦いの女神ネイト、そして彼らの子であるハク神の三柱であったと考えられています。現代のエスナに残る壮麗な神殿は、この三柱の神々に捧げられたものです。この神殿は、その建築の美しさと壮大さにおいて特筆すべき存在です。赤みがかった砂岩を主要な建材としており、特に印象的なのは、4列に並んだ6本の柱からなるポルチコです。それぞれの柱の頂部を飾る柱頭はハスの葉を模しており、一本ごとにその形状が微妙に異なっている点が見る者を惹きつけます。
エスナ周辺には、古代ラトポリスに関連する他の遺跡も存在します。エスナから南へ12キロメートルほど離れた場所には、エスナ神殿とほぼ同時代に建造されたとみられる別の神殿が見つかっていますが、その上に現代の町が位置しているため、本格的な発掘調査は行われていません。また、エスナの北約2キロメートル、現在のエル＝ダイール村がある辺りには、ラトポリスの三柱の守護神を祀った小神殿の遺跡があります。この近くには、かつてプトレマイオス3世の治世（紀元前246年～221年）に建てられたとみられる黄道十二星座が描かれた小神殿もありましたが、残念ながら19世紀に新たな運河建設の際に取り壊されてしまいました。
エスナ神殿本体の建築は、その歴史が層をなしています。入口脇柱の基部は、エジプト第18王朝時代のトトメス2世に遡る可能性がありますが、それ以外の大部分はプトレマイオス朝時代からローマ帝国時代にかけて再建されたものです。プトレマイオス朝の王たち、例えば上エジプトの多くの神殿を修復したプトレマイオス3世や、戸口に名を刻んだプトレマイオス5世の治世に重要な修復や増築が行われました。西壁にはプトレマイオス6世とプトレマイオス8世のレリーフも残っています。この神殿が現在の姿に再建されたのは、ローマ帝国時代のクラウディウス帝（41年～54年）の治世以降で、ウェスパシアヌス帝の時代に完成したとされています。入口の奉納銘にはウェスパシアヌス帝の名や称号が刻まれています。神殿の大きさは非常に印象的ですが、その彫刻やヒエログリフの中には、当時のエジプト美術が徐々に衰退期にあったことを示唆するものも見られます。神殿の様式は、中央に一つの大きな入口を持つ点でエドフの神殿と類似しています。入口の天井には、比較的保存状態の良い黄道十二宮図が描かれています。皇帝ゲタの名もヒエログリフで残っていますが、その兄であるカラカラによって部分的に消された痕跡があり、これがこの神殿に残る最後の皇帝名として比較的読みやすい状態で残っています。ローマ人による再建時には、従来の神殿の基礎部分から撤去が行われたと考えられており、神殿と埠頭を結ぶ儀礼用の参道もこの頃には失われていたようです。埠頭にはマルクス・アウレリウス・アントニヌスのカルトゥーシュが見られます。
エスナの町の西方にある墓地は、古代エジプトの信仰や社会構造を知る上で重要な場所です。ここでは、神聖視されたナイルパーチが生贄として埋葬されていた墓に加え、エジプト中王国時代から末期王朝時代にかけての人間の墓も発見されています。
エスナ神殿は、古代エジプト人が礼拝所に寄せる重視と、そこで求められた清浄に関する厳格な規則を現代に伝えています。神殿の領域に足を踏み入れる者は、「礼拝の純粋さを保つための厳しい規則」を遵守することが求められました。神殿の壁面に刻まれた銘文によると、神殿に入る前には手足の爪を短く整え、体毛を全て剃り、天然ソーダ石であるナトロンで手を清め、羊毛製が禁じられた亜麻布の衣服を着用し、さらに事前に数日間の禁欲期間を設けなければなりませんでした。これらの規則は、神聖な場所への立ち入りがいかに厳粛な行為であったかを示しています。
現代のエスナは、ナイル川を利用した水上交通の要衝として、また観光地として機能しています。ナイル川には、1906年にイギリスによって建設された歴史的な堰兼橋と、1990年代に建造された通称「Electricity Bridge」と呼ばれる新しい堰兼橋の二つが架かっています。ルクソールからアスワンへ向かう観光クルーズ船は、これらの堰に設けられた閘門を通過する必要があり、しばしば数時間に及ぶ待ち時間が発生します。現代のエスナにおける主な観光名所は、旅行者向けの活気ある市場と、古代の神殿です。神殿はまだ完全に発掘が終わった状態ではありませんが、ナイル川から内陸へ約200メートル入った場所にあり、周囲の現在の地表レベルよりも約9メートル低い位置にその威容を現しています。
特に「ラトポリス」という名称は、この地域に豊富に生息していた大型魚、ナイルパーチ（学名：Lates niloticus）に由来すると考えられています。ナイル川に棲む多くの魚の中でも最大級のナイルパーチは、古代エジプトにおいて特別な意味を持ち、彫刻のモチーフとされることも多くありました。時には女神ネイトの象徴として、王権や神性を示す卵形の盾や環で囲まれて描かれ、神聖視されていたことがうかがえます。この魚は生贄として捧げられ、町の西方にある墓地に丁重に埋葬されていました。
ラトポリスの主要な守護神は、創造神クヌム、戦いの女神ネイト、そして彼らの子であるハク神の三柱であったと考えられています。現代のエスナに残る壮麗な神殿は、この三柱の神々に捧げられたものです。この神殿は、その建築の美しさと壮大さにおいて特筆すべき存在です。赤みがかった砂岩を主要な建材としており、特に印象的なのは、4列に並んだ6本の柱からなるポルチコです。それぞれの柱の頂部を飾る柱頭はハスの葉を模しており、一本ごとにその形状が微妙に異なっている点が見る者を惹きつけます。
エスナ周辺には、古代ラトポリスに関連する他の遺跡も存在します。エスナから南へ12キロメートルほど離れた場所には、エスナ神殿とほぼ同時代に建造されたとみられる別の神殿が見つかっていますが、その上に現代の町が位置しているため、本格的な発掘調査は行われていません。また、エスナの北約2キロメートル、現在のエル＝ダイール村がある辺りには、ラトポリスの三柱の守護神を祀った小神殿の遺跡があります。この近くには、かつてプトレマイオス3世の治世（紀元前246年～221年）に建てられたとみられる黄道十二星座が描かれた小神殿もありましたが、残念ながら19世紀に新たな運河建設の際に取り壊されてしまいました。
エスナ神殿本体の建築は、その歴史が層をなしています。入口脇柱の基部は、エジプト第18王朝時代のトトメス2世に遡る可能性がありますが、それ以外の大部分はプトレマイオス朝時代からローマ帝国時代にかけて再建されたものです。プトレマイオス朝の王たち、例えば上エジプトの多くの神殿を修復したプトレマイオス3世や、戸口に名を刻んだプトレマイオス5世の治世に重要な修復や増築が行われました。西壁にはプトレマイオス6世とプトレマイオス8世のレリーフも残っています。この神殿が現在の姿に再建されたのは、ローマ帝国時代のクラウディウス帝（41年～54年）の治世以降で、ウェスパシアヌス帝の時代に完成したとされています。入口の奉納銘にはウェスパシアヌス帝の名や称号が刻まれています。神殿の大きさは非常に印象的ですが、その彫刻やヒエログリフの中には、当時のエジプト美術が徐々に衰退期にあったことを示唆するものも見られます。神殿の様式は、中央に一つの大きな入口を持つ点でエドフの神殿と類似しています。入口の天井には、比較的保存状態の良い黄道十二宮図が描かれています。皇帝ゲタの名もヒエログリフで残っていますが、その兄であるカラカラによって部分的に消された痕跡があり、これがこの神殿に残る最後の皇帝名として比較的読みやすい状態で残っています。ローマ人による再建時には、従来の神殿の基礎部分から撤去が行われたと考えられており、神殿と埠頭を結ぶ儀礼用の参道もこの頃には失われていたようです。埠頭にはマルクス・アウレリウス・アントニヌスのカルトゥーシュが見られます。
エスナの町の西方にある墓地は、古代エジプトの信仰や社会構造を知る上で重要な場所です。ここでは、神聖視されたナイルパーチが生贄として埋葬されていた墓に加え、エジプト中王国時代から末期王朝時代にかけての人間の墓も発見されています。
エスナ神殿は、古代エジプト人が礼拝所に寄せる重視と、そこで求められた清浄に関する厳格な規則を現代に伝えています。神殿の領域に足を踏み入れる者は、「礼拝の純粋さを保つための厳しい規則」を遵守することが求められました。神殿の壁面に刻まれた銘文によると、神殿に入る前には手足の爪を短く整え、体毛を全て剃り、天然ソーダ石であるナトロンで手を清め、羊毛製が禁じられた亜麻布の衣服を着用し、さらに事前に数日間の禁欲期間を設けなければなりませんでした。これらの規則は、神聖な場所への立ち入りがいかに厳粛な行為であったかを示しています。
現代のエスナは、ナイル川を利用した水上交通の要衝として、また観光地として機能しています。ナイル川には、1906年にイギリスによって建設された歴史的な堰兼橋と、1990年代に建造された通称「Electricity Bridge」と呼ばれる新しい堰兼橋の二つが架かっています。ルクソールからアスワンへ向かう観光クルーズ船は、これらの堰に設けられた閘門を通過する必要があり、しばしば数時間に及ぶ待ち時間が発生します。現代のエスナにおける主な観光名所は、旅行者向けの活気ある市場と、古代の神殿です。神殿はまだ完全に発掘が終わった状態ではありませんが、ナイル川から内陸へ約200メートル入った場所にあり、周囲の現在の地表レベルよりも約9メートル低い位置にその威容を現しています。
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