エチオピア労働者党

エチオピア労働者党：個人独裁を支えた翼賛政党の盛衰

エチオピア労働者党（Ye Ityop’p’ya Serratennyocch Parti）は、1984年から1990年までエチオピアに一党制を敷いた政党です。一見、共産主義を掲げていましたが、その実態はメンギスツ・ハイレ・マリアムによる個人独裁を支えるための組織でした。

設立の背景：軍事政権からの一党独裁へ

1974年のクーデターでハイレ・セラシエ1世が廃位され、メンギスツ・ハイレ・マリアムが実権を握ると、ソ連は共産主義政党の設立を求め始めました。当初メンギスツは抵抗しましたが、1970年代後半の反政府勢力の活発化を受け、国民を統制できる政党の必要性を痛感。1979年12月、エチオピア労働者党設立準備委員会（COPWE）を設置しました。

COPWEは、青年協会などの大衆組織を設立し、国民の政治意識を高めようとしました。しかし、1980年の第1回委員会では、委員の3分の1以上が軍人かアディスアベバの代表で占められ、多様性があるとは言えませんでした。書記局は文民の共産主義者が中心でしたが、軍事政権の監視下に置かれ、地方支部は陸軍将校が調整するなど、軍の影響力が強い組織でした。

1983年までに、COPWEは約5万人のメンバーと約6千5百の組織を抱えるまでになりました。しかし、メンギスツが掲げた共産主義は形骸化し、軍事政権への忠誠が重視されるようになり、党内では軍人や治安部隊員が多数派を占めるようになりました。

エチオピア労働者党の設立と実態

1984年9月12日、クーデターから10周年を記念して、エチオピア労働者党が正式に結党されました。COPWEは廃止され、メンギスツは党書記長に就任。政治局が政策決定の最高指導機関となりましたが、そのメンバーは旧軍事政権の幹部が多数を占め、メンギスツに反対する者はほとんどいませんでした。党の全ての協議体は、政策立案機関というよりも、メンギスツの意見を代弁するためだけの存在となっていきました。

党員は軍人やティグレ族、アムハラ族といった特定民族に偏っていましたが、地方レベルでは様々な民族の文民が権力を握ることができました。党は「国家開発を指導する」ことを目的とし、1987年の新憲法でその役割が明記されました。これにより、エチオピアはエチオピア人民民主共和国となり、文民統治への移行が宣言されましたが、実際には党が政府よりも強大な権限を持ち、地方の党指導者にはほぼ無制限の支配権が与えられました。

凋落と崩壊：ソ連崩壊とメンギスツの亡命

メンギスツは文民統治の共産主義国家という形を整えましたが、反政府勢力の反乱やソ連からの援助停止により、政権は危機に瀕しました。1991年のソ連崩壊により、エチオピア労働者党はマルクス・レーニン主義と一党制を放棄せざるを得なくなりました。同年5月21日、メンギスツがジンバブエに亡命し、エチオピア人民革命民主戦線（EPRDF）のメレス・ゼナウィが暫定政府を樹立。同年6月19日、エチオピア労働者党は非合法化され、消滅しました。

エチオピア労働者党は、共産主義を掲げながらも、個人独裁を支える翼賛政党として、短期間で崩壊したのです。

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