エドガー・ベイントン

エドガー・ベイントン（Edgar Bainton）は、1880年2月14日に生まれ、1956年12月8日に世を去ったイギリスの作曲家です。彼は主に教会音楽や合唱作品の分野で重要な足跡を残しました。その中でも、アンセム『そしてわれは新しき天国を見たり』は広く知られていますが、近年では、長らく忘れられていた彼の他の作品もコンサートプログラムに取り上げられ、再評価が進んでいます。

ベイントンはロンドンで生を受けましたが、後に家族とともにコヴェントリーに移り住みました。幼い頃からピアノに並外れた才能を示し、わずか9歳でピアニストとして公開演奏会を行うほどでした。1896年には奨学金を得て王立音楽大学に進学。ここではヘンリー・ウォルフォード・デイヴィスに音楽理論を学び、1899年からはチャールズ・ヴィリアーズ・スタンフォードに作曲の手ほどきを受けました。学生時代には、ジョージ・ダイソンやウィリアム・ハリス、ラトランド・ボウトンといった後の音楽家たちと親交を結んでいます。彼の最初の作品は、1898年に作曲された『ピアノのためのプレリュードとフーガ ロ短調』でした。

卒業後、ベイントンはニューカッスル・アポン・タイン音楽院でキャリアをスタートさせ、1901年にはピアノ科教授に就任、1912年には同音楽院の校長に昇進しました。この地で彼は、当時まだ地方ではあまり知られていなかったグスターヴ・ホルスト、レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ、アーノルド・バックスといった新進気鋭のイギリス人作曲家たちの作品を紹介する役割を果たしました。

1914年夏、バイロイト音楽祭への参加を目指してドイツを訪れていた最中、第一次世界大戦が勃発。これにより彼はベルリン近郊の収容所に拘留されることとなりました。およそ4年間にわたる抑留生活は彼の健康を蝕み、1918年には健康状態の悪化を受けてオランダのハーグに移送されましたが、終戦に伴いイギリスへの帰国が叶いました。帰国に先立ち、彼はロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団を指揮するという稀有な経験をしています。これはイギリス人指揮者として同楽団を指揮した最初の例の一つとされています。

イギリスに戻ったベイントンは音楽院での活動を再開し、作曲家としては合唱作品が複数の合唱祭で取り上げられるなど評価を得ました。また、国際的な視野を広げ、1930年から1931年にかけてはオーストラリアとカナダを、翌1931年から1932年にはインドを訪問。インドでは詩人・思想家のラビンドラナート・タゴールからインド音楽に関する教示を受ける機会がありました。これらの功績により、1933年にはダラム大学から名誉博士号が授与されています。

1933年、ベイントンはニューサウスウェールズ州立音楽院から理事として招聘され、翌1934年に家族とともにオーストラリアへ移住。シドニーでの新たな生活を始めました。音楽院では合唱と管弦楽の指導を担当する傍ら、オペラスクールの設立にも尽力しました。彼のシドニー到着は、オーストラリア放送協会が常設オーケストラを設立する動きを後押しするきっかけとなり、1934年にニューサウスウェールズ州交響楽団（現在のシドニー交響楽団）が発足。ベイントンはその記念すべき第1回演奏会の指揮台に立ちました。

オーストラリアにおいて彼は、当時まだ十分に紹介されていなかった多くの重要な作品を初めて演奏し、聴衆に届けました。エドワード・エルガーの交響曲第2番やオラトリオ『ゲロンティウスの夢』をはじめ、アーノルド・バックスの交響曲第3番、そしてクロード・ドビュッシー、ジャン・シベリウス、フレデリック・ディーリアス、ウィリアム・ウォルトンといった作曲家たちの作品も彼によって紹介されました。また、音楽院ではミリアム・ハイド、パーシー・グレインジャー、アルフレッド・ヒルなど、オーストラリアの作曲家たちの教育にも力を注ぎ、現地の音楽界の発展に貢献しました。

ベイントンは晩年をオーストラリアで過ごし、ニューサウスウェールズ州ポイントパイパーの海岸でその生涯を終えました。

彼の主要な作品には以下のようなものがあります。

室内楽
弦楽四重奏曲 イ長調
チェロとピアノのためのソナタ
ヴィオラとピアノのためのソナタ（1922年）

合唱とオーケストラ
自由と喜びの歌
塔

教会音楽
そしてわれは新しき天国を見たり

管弦楽
交響曲第1番『夜明け前』（コントラルト、合唱、オーケストラのための）
交響曲第2番 ニ短調
交響曲第3番 ハ短調
組曲『黄金の河』
幻想的序曲『プロメテウス』
3つの小品『エレジー、間奏曲とユーモレスク』
* ピアノとオーケストラのためのコンチェルト・ファンタジア

もう一度検索