エドワード・ダウンズ
サー・エドワード・トマス・ダウンズ（Sir Edward Thomas Downes, CBE, 1924年6月17日 - 2009年7月10日）は、イギリス出身の著名な指揮者です。
特にオペラ指揮者としてその名を知られ、「テッド」の愛称で多くの人々に親しまれました。
彼はキャリアを通じて数多くのオペラ作品や交響作品を指揮し、特定の作曲家の紹介に力を入れる一方、晩年には病状が悪化した妻とともに尊厳死を選択したことでも大きな注目を集めました。
銀行員の息子として生まれたダウンズは、14歳で学校を中退し、父親の意向でガソリンスタンドで働くなど、初期は必ずしも音楽畑に進む道筋ではありませんでした。しかし、5歳からヴァイオリンとピアノを習っていた音楽の素養があり、16歳で奨学金を得てバーミンガム大学に進学。英文学と音楽を専攻し、コーラングレーの演奏にも取り組みました。
アバディーン大学からのカーネギー奨学金を得たことは、指揮者としての専門的な学びを深める上で重要でした。これにより、王立音楽大学大学院を修了した後、著名なヘルマン・シェルヘンに師事することが可能となりました。
ダウンズのキャリアにおいて、コヴェントガーデン王立歌劇場との関係は極めて重要かつ長きにわたるものでした。1952年にラファエル・クーベリックの助手として着任したことから始まり、最初の仕事としてマリア・カラスのせりふ付けを担当しました。彼は17年間にわたり歌劇場に在籍し、1991年に准音楽監督の立場で退いた後も、毎年客演指揮者として舞台に立ち続けました。コヴェントガーデンでは少なくとも950回出演し、49作品のオペラを指揮しています。
国際的な活動としては、1970年にオーストラリア歌劇場の音楽監督に就任し、1973年のシドニー歌劇場のこけら落とし公演でタクトを取りました。この際、セルゲイ・プロコフィエフの歌劇《戦争と平和》のオーストラリア初演を実現させています。また、1983年までオランダ放送交響楽団の首席指揮者も務めました。世界各地の主要オーケストラとも共演しましたが、特にBBCノーザン交響楽団（現在のBBCフィルハーモニック）とは密接な関係を築き、首席客演指揮者から首席指揮者、そして最終的には名誉指揮者へと昇進しました。
レパートリーは多岐にわたりましたが、特定の作曲家への情熱で知られます。イギリス音楽ではジョージ・ロイドの交響曲を積極的に取り上げ、ピーター・マックスウェル・デイヴィスやマルコム・アーノルドの作品を初演しました。
特に、ジュゼッペ・ヴェルディとセルゲイ・プロコフィエフの作品の紹介に力を入れたことは特筆されます。プロコフィエフについては、様々な作品を世界各地で上演しました。1967年にはリーズ・タウン・ホールで《戦争と平和》のイギリス初演（演奏会形式）を指揮。1979年には未完だった1幕オペラ《マッダレーナ》の楽器配置を完成させ、その最初の録音を指揮しました。1981年にはこの作品の世界初演（舞台上演）も手掛けています。
ヴェルディ作品の指揮は、1953年にコヴェントガーデンでの《オテロ》公演をクーベリックから引き継いだことから始まりました。リハーサルなしでの指揮でしたが、彼はヴェルディ音楽に深く感銘を受け、それ以降、イングランドにおけるヴェルディ作品の再評価を主導する存在となります。ダウンズはヴェルディの全28作のオペラのうち25作を指揮しており、作曲者の没後100周年にあたる2001年までに全作品を指揮することを目標としていました。かつて彼は、《アルツィーラ》、《一日だけの王様》、《シチリアの晩祷》を指揮する機会がなかったことを残念に思っていると語っています。また、ヴェルディを「農民のような人物」「片足を天国に、もう片足を地に置いている」と評し、その音楽があらゆる聴衆を魅了する理由について独自の視点を示しました。
録音活動も活発に行い、特にBBCフィルハーモニックとの共演によるディスクは、英シャンドスなどのレーベルから数多くリリースされました。レパートリーには、上記のプロコフィエフやヴェルディ、イギリス音楽に加え、レインゴリト・グリエールの交響曲やオットリーノ・レスピーギの知られざる作品なども含まれています。
私生活では、1955年にロイヤル・バレエ団のダンサーであったジョーン・ウェストンと結婚しました。ジョーン夫人は後に振付師やテレビプロデューサーとしても活動しました。夫妻には息子のカラクタカス（1967年生、ミュージシャン・録音技師）と娘のブーディカ（1970年生、ビデオプロデューサー）がいます。
晩年、サー・エドワードは難聴が進み、視力もほとんど失われるなど、重篤ではないものの健康上の問題を抱えていました。人工股関節手術の後には体調がさらに衰え、ジョーン夫人に全面的に頼る生活となりました。そのような状況下で、ジョーン夫人が末期の膵臓癌と診断され、肝臓にも転移が見られ、余命が数週間であることが判明しました。
夫人の病状と自身の健康状態を踏まえ、ダウンズ夫妻は尊厳死を選ぶ決断をしました。2009年7月10日、夫妻はスイスのチューリヒにある安楽死幇助団体「ディグニタス」の支援を受け、ともに人生の幕を閉じました。この夫妻の選択は、イギリスのメディアで大きく報道され、議論を呼びました。
ジョーン夫人は子供たちが最期に立ち会うことを望みませんでしたが、ディグニタスは立ち会いを推奨しており、「テッドとジョウニー」は最期の時が来たことを喜んでいる様子だったと報告されました。夫妻の子供たちは声明を発表し、両親が「深刻な健康上の問題」に苦しんでいたことを認めました。声明によれば、ダウンズ自身は聴力を失い、視力を失っても生き続けることはできたものの、末期の癌に苦しむ妻に先立たれることを望まなかったとされています。
特にオペラ指揮者としてその名を知られ、「テッド」の愛称で多くの人々に親しまれました。
彼はキャリアを通じて数多くのオペラ作品や交響作品を指揮し、特定の作曲家の紹介に力を入れる一方、晩年には病状が悪化した妻とともに尊厳死を選択したことでも大きな注目を集めました。
銀行員の息子として生まれたダウンズは、14歳で学校を中退し、父親の意向でガソリンスタンドで働くなど、初期は必ずしも音楽畑に進む道筋ではありませんでした。しかし、5歳からヴァイオリンとピアノを習っていた音楽の素養があり、16歳で奨学金を得てバーミンガム大学に進学。英文学と音楽を専攻し、コーラングレーの演奏にも取り組みました。
アバディーン大学からのカーネギー奨学金を得たことは、指揮者としての専門的な学びを深める上で重要でした。これにより、王立音楽大学大学院を修了した後、著名なヘルマン・シェルヘンに師事することが可能となりました。
ダウンズのキャリアにおいて、コヴェントガーデン王立歌劇場との関係は極めて重要かつ長きにわたるものでした。1952年にラファエル・クーベリックの助手として着任したことから始まり、最初の仕事としてマリア・カラスのせりふ付けを担当しました。彼は17年間にわたり歌劇場に在籍し、1991年に准音楽監督の立場で退いた後も、毎年客演指揮者として舞台に立ち続けました。コヴェントガーデンでは少なくとも950回出演し、49作品のオペラを指揮しています。
国際的な活動としては、1970年にオーストラリア歌劇場の音楽監督に就任し、1973年のシドニー歌劇場のこけら落とし公演でタクトを取りました。この際、セルゲイ・プロコフィエフの歌劇《戦争と平和》のオーストラリア初演を実現させています。また、1983年までオランダ放送交響楽団の首席指揮者も務めました。世界各地の主要オーケストラとも共演しましたが、特にBBCノーザン交響楽団（現在のBBCフィルハーモニック）とは密接な関係を築き、首席客演指揮者から首席指揮者、そして最終的には名誉指揮者へと昇進しました。
レパートリーは多岐にわたりましたが、特定の作曲家への情熱で知られます。イギリス音楽ではジョージ・ロイドの交響曲を積極的に取り上げ、ピーター・マックスウェル・デイヴィスやマルコム・アーノルドの作品を初演しました。
特に、ジュゼッペ・ヴェルディとセルゲイ・プロコフィエフの作品の紹介に力を入れたことは特筆されます。プロコフィエフについては、様々な作品を世界各地で上演しました。1967年にはリーズ・タウン・ホールで《戦争と平和》のイギリス初演（演奏会形式）を指揮。1979年には未完だった1幕オペラ《マッダレーナ》の楽器配置を完成させ、その最初の録音を指揮しました。1981年にはこの作品の世界初演（舞台上演）も手掛けています。
ヴェルディ作品の指揮は、1953年にコヴェントガーデンでの《オテロ》公演をクーベリックから引き継いだことから始まりました。リハーサルなしでの指揮でしたが、彼はヴェルディ音楽に深く感銘を受け、それ以降、イングランドにおけるヴェルディ作品の再評価を主導する存在となります。ダウンズはヴェルディの全28作のオペラのうち25作を指揮しており、作曲者の没後100周年にあたる2001年までに全作品を指揮することを目標としていました。かつて彼は、《アルツィーラ》、《一日だけの王様》、《シチリアの晩祷》を指揮する機会がなかったことを残念に思っていると語っています。また、ヴェルディを「農民のような人物」「片足を天国に、もう片足を地に置いている」と評し、その音楽があらゆる聴衆を魅了する理由について独自の視点を示しました。
録音活動も活発に行い、特にBBCフィルハーモニックとの共演によるディスクは、英シャンドスなどのレーベルから数多くリリースされました。レパートリーには、上記のプロコフィエフやヴェルディ、イギリス音楽に加え、レインゴリト・グリエールの交響曲やオットリーノ・レスピーギの知られざる作品なども含まれています。
私生活では、1955年にロイヤル・バレエ団のダンサーであったジョーン・ウェストンと結婚しました。ジョーン夫人は後に振付師やテレビプロデューサーとしても活動しました。夫妻には息子のカラクタカス（1967年生、ミュージシャン・録音技師）と娘のブーディカ（1970年生、ビデオプロデューサー）がいます。
晩年、サー・エドワードは難聴が進み、視力もほとんど失われるなど、重篤ではないものの健康上の問題を抱えていました。人工股関節手術の後には体調がさらに衰え、ジョーン夫人に全面的に頼る生活となりました。そのような状況下で、ジョーン夫人が末期の膵臓癌と診断され、肝臓にも転移が見られ、余命が数週間であることが判明しました。
夫人の病状と自身の健康状態を踏まえ、ダウンズ夫妻は尊厳死を選ぶ決断をしました。2009年7月10日、夫妻はスイスのチューリヒにある安楽死幇助団体「ディグニタス」の支援を受け、ともに人生の幕を閉じました。この夫妻の選択は、イギリスのメディアで大きく報道され、議論を呼びました。
ジョーン夫人は子供たちが最期に立ち会うことを望みませんでしたが、ディグニタスは立ち会いを推奨しており、「テッドとジョウニー」は最期の時が来たことを喜んでいる様子だったと報告されました。夫妻の子供たちは声明を発表し、両親が「深刻な健康上の問題」に苦しんでいたことを認めました。声明によれば、ダウンズ自身は聴力を失い、視力を失っても生き続けることはできたものの、末期の癌に苦しむ妻に先立たれることを望まなかったとされています。
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