エフタル・サーサーン戦争

エフタル・サーサーン戦争

エフタル・サーサーン戦争は、5世紀から6世紀にかけて中央アジアで繰り広げられた、エフタルとサーサーン朝ペルシアの間の一連の戦闘です。この戦争は、エフタルの台頭と崩壊、そしてその後の周辺地域への影響を語る上で重要な出来事です。

背景

エフタルは、イラン系またはテュルク系の遊牧民族と考えられています。彼らは5世紀中頃に中央アジアを支配し、最盛期には天山山脈北部からアフガニスタン、パンジャーブ地方、ホラズム地方まで広大な領域を支配しました。エフタルは、北インドのグプタ朝を衰退させたことでも知られています。

サーサーン朝は、エフタルの侵攻に悩まされていました。バフラーム5世の時代にはメルヴを占領され、国境にはエフタルに対する防衛施設が建設されました。ヤズデギルド2世の時代にも、エフタルとの抗争が続いていました。

エフタルの隆盛とサーサーン朝の苦難

ヤズデギルド2世の死後、ホルミズド3世が即位しますが、ペーローズ1世が彼を倒して王位を簒奪しました。この時、エフタルはペーローズ1世の即位を支援したとされています。ペーローズ1世は、即位後、東ローマ帝国との協調路線を取り、東方への軍事的な比重を高めました。

466年、ペーローズ1世はキダーラ朝を破りバクトリアを奪還しますが、その空白地帯にエフタルの支配が浸透します。ペーローズ1世はエフタルに宣戦布告し、二度または三度の戦役を繰り広げますが、いずれも敗北し、捕虜となる屈辱を味わいました。二度目の戦役後には多額の身代金を支払い、息子のカワードを人質として差し出さざるを得ませんでした。

484年、ペーローズ1世は、側近の反対を押し切って大軍を率いてエフタルに侵攻しますが、待ち伏せに遭い、自身もろとも軍は壊滅。ペーローズ1世の遺体は発見されず、娘のペーローズドゥフトは捕虜となり、エフタル王の妻となりました。

ペーローズ1世の死後、サーサーン朝は統治機構が麻痺し、エフタルの侵略を許しました。ホラーサーン地方の主要都市はエフタルの支配下に入り、サーサーン朝は国家の危機に瀕しました。

エフタルの崩壊

カワード1世は、エフタルの支援を受けて王位を奪還しました。彼はエフタル王の娘を娶り、エフタルとの関係を強化することで王権の安定を図りました。しかし、カワード1世の後を継いだホスロー1世は、エフタルへの復讐を誓い、東ローマ帝国との和平を結び、西方の安定を図った上で、エフタルへの攻撃準備を進めました。

ホスロー1世は、軍事改革によってサーサーン朝の軍事力を増強しましたが、エフタルに対抗するにはまだ不安がありました。その時、中央アジアに突厥という新たな勢力が台頭し、エフタルを脅かし始めました。557年、ホスロー1世は突厥と同盟を結び、エフタルを挟撃することに成功しました。ブハラの戦いでエフタル軍は壊滅し、エフタルは崩壊へと向かいました。

影響

エフタルの崩壊後、その領土はいくつかの小王国に分裂しました。エフタル王族の一部はサーサーン朝領に逃れ、残りは突厥の支配下に入りました。ホスロー1世は、突厥との関係を強化し、アムダリヤ川を国境とすることで合意しました。しかし、その後、シルクロードの支配権を巡って突厥との関係が悪化し、最終的にはサーサーン朝の衰退を招くことになりました。

エフタル・サーサーン戦争は、中央アジアの勢力図を大きく塗り替えるとともに、サーサーン朝の衰退を早める一因となりました。この戦争は、遊牧民族と定住国家の衝突、そしてシルクロードを巡る覇権争いの歴史を象徴する出来事として、記憶されています。

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