キダーラ朝

キダーラ朝：謎に包まれたクシャーナ朝の後継国家

キダーラ朝は、5世紀にバクトリア（現在のウズベキスタン、アフガニスタン北部）および西北インドに存在した国家です。しかし、その実態は中国の歴史書『魏書』『北史』、プリスクスの記述、そしてわずかなコインなどの考古資料から推測するしかありません。ここでは、断片的な情報から見えてくるキダーラ朝の歴史、文化、そして貨幣について解説します。

歴史

4世紀半ば、キダーラという人物が匈奴（フン族）とともにバクトリアへ移住したと考えられています。402年以降、キダーラはバクトリアでキダーラ朝を創始しました。440年頃には、ヒンドゥークシュ山脈を越えてガンダーラ以北の地域を支配下に置きます。

しかし、キダーラ朝はエフタルの侵攻を受け、バクトリアを占領されてしまいます。キダーラは西方へ逃れ、カスピ海沿岸に亡命政権を樹立しました。一方、エフタルの侵攻を免れた西北インドの勢力は小月氏国となり、キダーラの子孫が統治することになります。

キダーラの死後、子のクグカスがカスピ海沿岸でクシャーナの王位を継承しましたが、468年頃にはサーサーン朝のペーローズ1世によって滅ぼされました。ガンダーラを中心とする小月氏国では、ピロとバラフラーンが王となりました。477年から500年の間に、西北インドの小月氏国もエフタルによって滅ぼされました。

『魏書』・『北史』の記述

中国の史書である『魏書』と『北史』には、キダーラ朝に関する記述が残されています。これらの記述は、キダーラ朝の存在を裏付ける貴重な情報源となっています。ただし、記述は断片的であり、その全容を把握するには至っていません。

キダーラ朝のコイン

キダーラ朝の貨幣は、その文化や歴史を知る上で重要な手がかりとなります。特に、ピロとバラフラーンの名を持つ銀貨は、キダーラ朝の後継者たちの存在を示唆しています。

貨幣の様式については、サーサーン朝の影響が見られます。マーティンはシャープール2世、カニンガムはバハラーム5世、キュリエルはヤズデギルド2世の貨幣を模倣していると主張しています。しかし、貨幣様式の解釈には主観的な要素が入り込む余地があり、年代特定には慎重な検討が必要です。榎一雄は、貨幣の様式がヒンドゥークシュ以北におけるサーサーン朝文化の影響を示し、ブラーフミー文字によるインド語の銘文がヒンドゥークシュ以南の支配を示していると論じています。

キダーラ朝の歴史は、依然として多くの謎に包まれています。今後の研究によって、その姿がより鮮明になることが期待されます。

参考資料

山田明爾『キダーラ・クシヤーンについて』（印度學佛教學研究11巻2号(通号22) 1963年3月）
宮本亮一（AA研共同研究員，京都大学）「クシャーンからエフタルへ：中央アジアから南アジアへの人間集団の移動」（「「インド世界」の形成 フロンティア地域を視座として」（令和元年度第1回研究会））

もう一度検索