エマーヌエル・フォイアーマン

エマーヌエル・フォイアーマン：早逝した天才チェリストの生涯

エマーヌエル・フォイアーマン（1902年11月22日 - 1942年5月25日）は、オーストリア出身で後にアメリカで活躍したチェリストです。その卓越した才能と音楽性により、20世紀前半を代表するチェリストの一人として、またパブロ・カザルスの後継者として大きな期待を寄せられていました。しかし、第二次世界大戦中に39歳という若さでこの世を去りました。

生い立ちと音楽との出会い

1902年、現在のウクライナにあたるコロミヤで生まれたフォイアーマンは、音楽好きの両親のもとで育ちました。特に父親はヴァイオリンとチェロの演奏に長けており、兄ジグムントも音楽的な才能に恵まれていました。5歳の時に家族でウィーンに移住し、9歳からウィーン・フィルの首席チェリストであったフリードリヒ・ブックスバウムに師事します。11歳でウィーン・フィルと共演し、ハイドンのチェロ協奏曲で正式にデビューを果たしました。また、1912年にはカザルスのリサイタルを聴き、深い感銘を受けました。

クレンゲルとカザルスからの影響

1917年、フォイアーマンはライプツィヒ高等音楽院に入学し、名教師ユリウス・クレンゲルの門下となりました。クレンゲルはフォイアーマンを「神の恵みを受けた芸術家」と絶賛しましたが、フォイアーマンはクレンゲルの伝統的な奏法をそのまま受け継ぐのではなく、カザルスの奏法を研究し、独自のスタイルを確立しました。ライプツィヒでは、グリュッツマッハーの後任として音楽院で教鞭を執り、ギュルツェニヒ管弦楽団の首席チェリストも務めました。

ソリストとしての活躍

1923年にウィーンに戻ったフォイアーマンは、ソリストとして本格的な活動を開始しました。オーストリア国内はもちろんのこと、ソ連など海外でもリサイタルを開催し、その名声を高めました。1927年にはイギリスデビューを果たし、ヘンリー・ウッドから絶賛されました。

1929年にはベルリン高等音楽院の教授に就任し、ベルリン時代は彼のキャリアの中でも最も重要な時期となりました。カール・フレッシュ、シモン・ゴールドベルク、パウル・ヒンデミットらと弦楽三重奏団を結成したり、ヤッシャ・ハイフェッツ、アルトゥール・ルービンシュタインなどと共演したりしました。また、教育者としても才能を発揮し、齋藤秀雄など多くの弟子を育てました。しかし、ナチスが台頭するとユダヤ系であったフォイアーマンは職を追われ、1933年にロンドンへと亡命せざるを得なくなりました。

アメリカでの活動と早すぎる死

ドイツを離れたフォイアーマンは、主にイギリスやアメリカで活動しました。1934年には日本を訪れ、リサイタルを開催しています。アメリカでは、シカゴ交響楽団やニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団と共演するなど、精力的な活動を続けました。1935年には、アルノルト・シェーンベルクからチェロ協奏曲を献呈され、初演も行いました。1938年には、アンシュルスの影響でヨーロッパを離れ、アメリカに移住しました。アメリカでは、カーティス音楽学校で教鞭を執り、バーナード・グリーンハウスやアラン・シャルマンといった後進の指導にあたりました。しかし、1942年に痔の手術後に合併症を起こし、39歳という若さでこの世を去りました。

使用楽器

フォイアーマンは、生涯で数々の名器を演奏しました。1929年以降は、ダビッド・テヒラー、ドメニコ・モンタニャーナ、マッテオ・ゴフリラーといった名工のチェロを愛用しました。特に、モンタニャーナのチェロは「フォイアーマン」と名付けられ、現在もスイスのコレクターによって所蔵されています。

人物と評価

フォイアーマンは、その短い生涯の中で、多くの音楽家から絶大な賞賛を受けました。ハイフェッツは彼を「100年に一度の才能」と称え、ルービンシュタインは「全世代を通じて最も偉大なチェリスト」と評しました。カザルスもまた、フォイアーマンを高く評価し、その早すぎる死を惜しみました。

日本との関わり

フォイアーマンは、1934年と1936年の二度にわたり日本を訪れ、リサイタルを開催しました。初来日時には、聴衆の入りは少なかったものの、口コミで評判が広まり、告別演奏会では多くの聴衆を集めました。しかし、2度目の来日では、必ずしも前回のような成功を収めることはできませんでした。それでも、彼の演奏は日本の音楽ファンに大きな印象を与え、その技巧と音楽性は高く評価されました。

ディスコグラフィー

フォイアーマンは、パーロフォン、イギリス・コロムビア、日本コロムビア、RCAなど、多くのレーベルに録音を残しています。彼の演奏は、現在でもCDなどで聴くことができます。主な録音として、以下のようなものが挙げられます。

J.S.バッハ：G線上のアリア
ドヴォルザーク：チェロ協奏曲
ブルッフ：コル・ニドライ
ハイドン：チェロ協奏曲ニ長調
シューベルト：アルペジョーネソナタ
ブラームス：チェロソナタ第1番
瀧廉太郎：荒城の月
山田耕筰：からたちの花

参考文献

Morreau, Annette (2002). Emanuel Feuermann. Yale University Press.
Itzkoff, Seymour W. (1979). Emanuel Feuermann, Virtuoso. A Biography. University of Alabama Press.
コレドール『カザルスとの対話』白水社、1970年。
堤剛『チェロを生きる』新潮社、2002年。


エマーヌエル・フォイアーマンは、その早すぎる死によって伝説となった天才チェリストです。彼の演奏は、今もなお多くの人々に感動を与え続けています。

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