エルサレム攻囲戦 (紀元前37年)

エルサレム攻囲戦（紀元前37年）

紀元前37年に起こったエルサレム攻囲戦は、ヘロデ大王がユダヤ王位を確固たるものとするための最終的な軍事作戦でした。マルクス・アントニウスから派遣されたローマ軍の支援を得て、ヘロデはエルサレムを占領し、アンティゴノスを退位させることに成功しました。これにより、ハスモン朝によるユダヤ支配は終焉を迎えました。この攻囲戦は、フラウィウス・ヨセフスやカッシウス・ディオといった歴史家の著作にも記録されています。

背景

紀元前63年、ローマの将軍ポンペイウスは、第三次ミトリダテス戦争での勝利後、ハスモン朝の内紛に介入しユダヤを征服しました。ポンペイウスは、ヨハネ・ヒルカノス2世を大祭司に任命しましたが、ヒルカノスの治世下では、イドマヤ人のアンティパトロスが実権を握っていました。紀元前49年にローマ内戦が勃発すると、アンティパトロスはヒルカノスにカエサル側につくよう促し、勝利したカエサルはヒルカノスを宗教的統治者、アンティパトロスを徴税長官に任命しました。その後、アンティパトロスは息子たちをエルサレムとガリラヤの知事に任命しました。カエサルの暗殺後、ヒルカノスとアンティパトロスはマルクス・アントニウスを支持しました。

紀元前40年、アリストブロス2世の息子アンティゴノス2世は、パルティア軍の支援を受けてハスモン朝の領土を奪還しようとしました。パルティア軍はローマのシリア属州を襲撃し、ユダヤを占領、ヒルカノスとファサエロスを捕らえ、アンティゴノス2世をユダヤ王に擁立しました。アンティゴノスは、ヒルカノスが王に復位するのを恐れ、彼の両耳を切り落としました。ファサエロスは自害し、ヘロデとその家族はマサダで包囲されましたが、ヘロデはペトラへ脱出し、その後ローマへ向かいました。ローマでヘロデはアントニウスの支援を受け、「ユダヤの王」と宣言され、ユダヤへ帰還し王権を主張しました。

紀元前39年から38年にかけて、ローマの将軍プブリウス・ウェンティディウス・バッススはパルティア軍を破りました。彼はヘロデの弟ヨセポスを支援する名目でユダヤに入りましたが、アンティゴノスから賄賂を受け取り、軍を引き上げました。ウェンティディウスは、シロンを指揮官としていくばくかの兵をユダヤに残しました。ヘロデはプトレマイスに上陸し、シロンの軍と合流した後、ガリラヤを征服しアンティゴノスに対する軍事作戦を開始しました。ヘロデ軍はヤッファを占領し、マサダを解放しました。その後、エルサレムへ進軍しましたが、シロンがアンティゴノスに買収されていたため、エルサレムの包囲を断念しました。ヘロデはサマリアとガリラヤで反乱軍と戦い、弟のヨセポスをイドマヤへ派遣しました。ローマ軍の増援を受けたヘロデ軍は、2年間の戦闘の末、紀元前38年の後半までにガリラヤを平定し、エルサレムへ進軍しました。アンティゴノスはエリコとサマリアへ軍を送りましたが、両方とも敗北しました。ヘロデは再びエルサレムの外に幕舎を張りましたが、冬の到来により軍事作戦を停止しました。

包囲

ヘロデは、神殿の丘の北に幕舎を張り、そこは以前ポンペイウスが野営地を設置した場所と同じでした。ヨセフスはヘロデの指揮下に3万の兵がいたと記録していますが、現代の推定ではその半分程度と考えられています。ヘロデ軍は、ガイウス・ソシウス率いるローマ軍団によって増強されました。春になるとヘロデは包囲を開始しました。ヘロデの技術者たちは、ローマ軍の戦法に倣い、城壁を囲む壁を築き、都市の周囲の木々を伐採し、攻城兵器を使用しました。アンティゴノス軍は食糧不足に苦しみましたが、効果的に防衛を行いました。

ヘロデ軍は40日目に神殿の丘の第一の城壁を破り、15日後には第二の城壁を破りました。その後、神殿の周囲も制圧されました。アンティゴノスはハスモン・バリスとして知られる砦に籠り、彼の支持者たちは神殿の境内を占拠し続けました。ヘロデは、神殿での儀式を継続するために供物の運び込みを許可しました。アンティゴノスは、ヘロデの血統が純粋なユダヤ人ではないとして、彼の王位への権利を公然と問いただしました。ヘロデは、彼の王位の正当性と評判への影響を恐れ、要求に応じましたが、更なる交渉は実を結ばず、ヘロデ軍は町の襲撃を開始しました。エルサレムは虐殺と略奪に見舞われ、ヘロデはローマ軍兵士による神殿内部の冒涜を防がなければなりませんでした。ヘロデはソッシウスに詰め寄り、市内の安全を確保しました。

戦後

アンティゴノスはソッシウスに降伏し、アントニウスの下へ送られました。ヘロデはアンティゴノスがローマの後援を得ることを恐れ、アントニウスに賄賂を贈り処刑を求めました。アントニウスはアンティゴノスを処刑し、ヘロデもアンティゴノス派の指導者たちを処刑しました。

エルサレムの陥落によってヘロデの征服戦争は終結しました。彼は王位に就き、ハスモン朝の血を引く者たちを抹殺していきました。ヒルカノス2世は紀元前30年に処刑され、ヘロデは紀元前4年の死までユダヤを統治しました。

聖書学

ヘロデによるエルサレム攻囲戦は、旧約聖書偽典のソロモンの知恵17章と関連付けられています。このテキストは、ダビデ王朝との契約に反して王位を奪ったユダヤ人を罪人としており、彼らが外国の統治者によって倒されると記しています。聖書学者は、ここに記された罪人をハスモン朝、外国の統治者をポンペイウスと解釈してきましたが、ヘロデによるユダヤ征服とハスモン朝断絶を示唆しているとも考えられています。

もう一度検索