エレニ・パレオロギナ (セルビア専制公妃)

エレニ・パレオロギナ：帝国の黄昏に生きたセルビアの妃

エレニ・パレオロギナ（1431年 - 1473年）は、東ローマ帝国（ビザンツ帝国）の皇族の血を引く女性であり、セルビア専制公ラザル・ブランコヴィチの妃として、激動の時代を生きました。彼女の生涯は、帝国の崩壊、オスマン帝国の侵攻、そして個人の信仰と運命が複雑に絡み合った、波乱に満ちたものでした。

生い立ちと家族

エレニは、モレアス専制公ソマス・パレオロゴスと、アカイア公女カテリーナ・ザッカリアの長女として生まれました。ソマスは、東ローマ帝国最後の皇帝コンスタンティノス11世の弟にあたります。つまり、エレニは皇帝の姪にあたるのです。彼女には、アンドレアス、マヌエルという2人の弟と、ゾイという妹がいました。ゾイは後にモスクワ大公イヴァン3世の妃となり、ロシアに東ローマ帝国の血を伝えることになります。

セルビアへ

1446年、エレニはセルビア専制公国のラザル・ブランコヴィチと結婚しました。セルビアは当時、オスマン帝国の脅威に晒されており、エレニの結婚は、東ローマ帝国との連携を強化する意味合いもありました。1456年、ラザルが父ジュラジの後を継いで専制公となると、エレニは専制公妃となります。しかし、その治世は長くは続きませんでした。

夫婦の間には3人の娘がいました。

イェレナ（後にマリアと改名）：ボスニア王スティエパン・トマシェヴィチと結婚
ミリツァ：エピロス専制侯レオナルド3世トッコと結婚
* イェリナ：アルバニアのジョン・カストリオティ2世の妻

セルビアの滅亡と亡命

1458年、ラザルが死去すると、セルビアは政治的な混乱に陥ります。エレニは、義兄スティエパン・ブランコヴィチと共に実質的な統治者となりますが、オスマン帝国の侵攻は日に日に激しさを増していきます。1459年6月20日、ついに首都スメデレヴォがオスマン帝国軍によって陥落し、セルビア専制公国は滅亡しました。

エレニはセルビアを脱出し、ラグーサ（現ドゥブロヴニク）、コルフ島を経て、最終的にレフカダ島に落ち着きました。彼女の故郷モレアス専制公領もすでにオスマン帝国の手に落ちており、彼女の家族もまた亡命生活を送っていました。

修道女として

レフカダ島で、エレニはカトリックに改宗し、修道女となりました。そして、「ヒポモナ」（ギリシア語で「忍耐強い」の意味）という通称で呼ばれるようになります。彼女は修道院で静かに祈りを捧げ、1473年11月7日にその生涯を終えました。

エレニ・パレオロギナの生涯は、東ローマ帝国の滅亡という歴史的な大事件と、個人の運命が深く結びついたものでした。彼女は、故郷を失い、信仰を変えながらも、強く生き抜きました。その姿は、混迷の時代を生きる人々に、静かな勇気を与えてくれるでしょう。

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