エロディアード

ジュール・マスネ『エロディアード』

『エロディアード』（原題: Herodiade）は、ジュール・マスネが作曲した4幕6場からなるグランド・オペラです。1881年12月19日にブリュッセルのモネ劇場で初演されました。台本はポール・ミリエとアンリ・グレモンがフランス語で書き下ろし、ギュスターヴ・フローベールの小説『三つの物語』を素材としています。

マスネが手掛けた3つのグランド・オペラ（他に『ラオールの王』、『ル・シッド』）の中でも、本作は最も出来が良いと評価されています。『ウェルテル』や『マノン』、『タイス』といったマスネの代表的な抒情オペラとは異なり、エネルギーと男性的な推進力に満ち溢れているのが特徴です。初演のモネ劇場では55回も上演され、マスネ自身もレオポルド勲章を受章しました。

初演とその後

初演後、1884年2月1日にはパリのイタリア座で再演されました。この際、アンジェロ・ザナルディーニによるイタリア語翻訳版が用いられ、場面構成の見直しや役の追加が行われ、現在の4幕6場構成となりました。

イタリア初演: 1882年2月23日、ミラノ・スカラ座
アメリカ初演: 1892年2月13日、ニューオリンズのフレンチ・オペラハウス
イギリス初演: 1904年7月6日、ロンドンのコヴェント・ガーデン王立歌劇場（『サロメ』と改題）
日本初演: 2012年6月24日、東京オペラ・プロデュースにより新国立劇場中劇場

日本初演では、大隅智佳子がサロメ、及川睦子がエロディアード、内山信吾がジャン、秋山隆典がエロデ王、峰茂樹がファニュエル、笠井仁がヴィテリウスを演じました。飯坂純の指揮、東京オペラ・フィルハーモニック管弦楽団と東京オペラ・プロデュース合唱団により上演され、八木清市が演出を担当しました。

登場人物

エロディアード: ヘロデ王の妻
サロメ: エロディアードの娘（実際には隠された出自を持つ）
エロデ王: ユダヤの領主
ジャン: 洗礼者ヨハネ
ファニュエル: 占星術師
ヴィテリウス: ローマ総督

合唱: 祭司、商人、パリサイ人、サマリア人、民衆、兵士など
バレエ団: 演出によっては省略されることもあります

楽器編成

木管楽器: フルート、ピッコロ、オーボエ、イングリッシュホルン、クラリネット、バスクラリネット、ファゴット、サクソフォーン
金管楽器: ホルン、トランペット、コルネット、トロンボーン、バスチューバ
打楽器: ティンパニ、大太鼓、トライアングル、シンバル、グロッケンシュピール、小太鼓、タムタム、チェレスタ
その他: ハープ、弦五部

演奏時間

約2時間15分

あらすじ

物語の舞台は西暦30年頃のエルサレム。愛、宗教、政治が複雑に絡み合うドラマが展開されます。

第1幕

エルサレムの宮廷では、サロメが洗礼者ヨハネを探し求めています。彼女はヨハネの説教と美貌に心を奪われていました。一方、エロデ王はサロメに不義の愛情を抱いており、王妃エロディアードはヨハネを処刑するよう王に求めます。ヨハネは現れ、エロディアードを激しく呪います。サロメはヨハネに愛を告白しますが、彼はそれを拒絶します。

第2幕

エロデ王はサロメの幻影を見るために魔法の酒を飲みます。ファニュエルは王に、政治をないがしろにしないよう諫めます。エルサレムの広場では、エロデ王がローマとの戦いを扇動しますが、ローマ総督ヴィテリウスが現れ、民衆に寺院の返却と宗教の自由を保証します。ヨハネとサロメは現れ、霊的な力が世俗的な権力よりも勝ると説きます。

第3幕

ファニュエルの家で、エロディアードはサロメが自分の娘であることを知ります。神殿内では、ヨハネが監禁されており、サロメは彼を捜し求めます。エロデ王はサロメに愛を迫りますが、拒絶されます。ヨハネの処刑を求める祭司たちに対し、エロデ王は葛藤しますが、サロメがヨハネを愛していることを知り、嫉妬に駆られてヨハネの処刑を宣言します。

第4幕

地下牢でヨハネは死を覚悟し、サロメへの愛を自覚します。サロメは現れ、共に死にたいと願います。宮廷では祝典が行われますが、サロメはエロディアードにヨハネの赦免を申し出ます。しかし、ヨハネは既に処刑されていました。逆上したサロメはエロディアードに襲いかかりますが、エロディアードは自分がサロメの母親であることを告白します。絶望したサロメは自らの胸を刺し、命を絶ちます。

主な録音

（省略）

参考文献

『オペラ名曲百科 上 増補版 イタリア・フランス・スペイン・ブラジル編』 永竹由幸 著、音楽之友社
『新グローヴ オペラ事典』 スタンリー・セイデイ著、白水社
『オックスフォードオペラ大事典』ジョン・ウォラック、ユアン・ウエスト（編集）、大崎滋生、西原稔（翻訳）、平凡社
『ラルース世界音楽事典』福武書店

外部リンク

エロディアードの楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)

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