エーリヒ・ケンプカ

エーリヒ・ケンプカ：ヒトラーの運転手、その生涯

エーリヒ・ケンプカ（1910年9月16日 - 1975年1月24日）は、アドルフ・ヒトラーの運転手として知られる人物です。彼はナチス党員であり、親衛隊員としても活動し、最終階級は親衛隊中佐にまで昇進しました。ケンプカはヒトラーの側近として、その生涯の重要な局面に深く関わりました。

生い立ちとナチス党入党

ケンプカは、ドイツのオーバーハウゼンで鉱夫の息子として生まれました。自動車修理工として働いていた彼は、1930年4月1日にナチス党に入党しました。その後、エッセン地区の指導者ヨーゼフ・テアボーフェンの運転手を務めました。

ヒトラーの運転手へ

1932年2月、ケンプカはベルリンに呼び出され、ヒトラーとの面談を受けました。そこで、彼は自身の運転技術やトラブル対応について詳細な質問を受け、その結果、ヒトラーの警護部隊である「親衛隊総統警護隊」に選ばれました。ケンプカはテアボーフェンの推薦もあり、ヒトラーの運転手の一人となりました。1932年の大統領選挙では、主要な運転手であったユリウス・シュレックの代わりに1万2000kmも走行し、その運転技術を認められました。この年、ケンプカは合計で12万km以上を走破しました。

1934年までには、ケンプカはシュレックやエミール・モーリスに代わり、ヒトラーの最も重要な運転手、従者、ボディーガードとなりました。彼は運転だけでなく、ヒトラーの側近として常に同行し、長いナイフの夜におけるエルンスト・レーム逮捕の際にも居合わせていました。

主要な運転手としての活躍

1936年5月にシュレックが死去すると、ケンプカはヒトラーの主要な運転手となりました。1937年には親衛隊の「生命の泉」に入り、親衛隊全国指導者ハインリヒ・ヒムラーから親衛隊名誉リングを授与されました。ケンプカはチェコスロバキア解体に向けた会談やズデーテン進駐にも同行し、ポーランド侵攻後はヒトラーと共に最前線を視察しました。

ケンプカはヒトラーに防弾車の製作を提案しましたが、当初はヒトラーに却下されました。しかし、1939年に暗殺未遂事件が起きたことをきっかけに、防弾車の製作が許可され、完成した防弾車は、その高い防御力からマンネルハイム元帥やフランコ総統などにも贈呈されました。ケンプカに対するヒトラーの信頼は厚く、夜間に護衛なしでベルリンをドライブしたり、マルティン・ボルマンの讒言も受け付けませんでした。

第二次世界大戦末期

1945年4月、ベルリンがソ連軍の攻撃にさらされる中、ケンプカはヴェンク将軍にソ連軍への攻撃を督促する命令書を届ける任務を受けました。しかし、その試みは様々な混乱により失敗に終わりました。4月30日には、ヒトラーの副官オットー・ギュンシェの指示で、ヒトラー夫妻の遺体焼却のためにガソリンを調達しました。ケンプカ自身も焼却作業に加わり、その様子を目撃しています。

総統地下壕からの脱出

5月1日夜、ケンプカは総統地下壕から脱出するグループを率いました。グループはフェールベリンを目指しましたが、ソ連軍の攻撃により身動きが取れなくなります。5月2日には、マルティン・ボルマンやルートヴィヒ・シュトゥンプフェッガーらと合流しましたが、砲撃によりボルマンとシュトゥンプフェッガーは吹き飛ばされ、ケンプカも意識を失います。意識を回復後、ケンプカはグループを解散し、一人で脱出を試みました。

終戦後

ケンプカはユーゴスラビア人女性に助けられ、工員に変装してソ連軍の目を逃れました。その後、トラウデル・ユンゲと再会し、アメリカ軍の捕虜になることを決意しました。ケンプカはライン川を泳いで渡り、アメリカ軍に逮捕され、捕虜収容所を転々としました。彼はヒトラーの死亡について何度も尋問を受け、ニュルンベルク裁判でも証人として出廷しました。1947年に釈放されたケンプカは、1951年に回顧録『ヒットラーを焼いたのは俺だ』を出版し、その中で第三帝国の終焉を証言しました。戦後はポルシェで運転手として働き、1975年にフライベルク・アム・ネッカーで死去しました。

ケンプカの遺産

エーリヒ・ケンプカは、ヒトラーの側近として、その生涯を通して重要な役割を果たしました。彼の回顧録は、第三帝国の内情やヒトラーの最期を知る上で貴重な資料となっています。

もう一度検索