オラーツィオ・ヴェッキ

オラーツィオ・ヴェッキ（Orazio Vecchi, 1550年12月6日受洗 - 1605年2月19日）は、イタリア後期ルネサンス音楽を代表する作曲家の一人です。特に「マドリガル・コメディ」という独自のジャンルを確立したことで知られ、その中でも代表作である《ランフィパルナーソ（パルナッソス山めぐり）L’Amfiparnaso》は、現在でも高く評価されています。

ヴェッキは、モデナで生まれ、幼少期から音楽の才能を発揮しました。地元の修道士サルヴァトーレ・エッセンガに師事した後、ベネディクト会の修道院で聖職者としての研修を受けました。1577年には叙階され、聖職者としての道を歩み始めます。音楽家としてのキャリアは、大公家の宴席のためにクラウディオ・メールロやジョヴァンニ・ガブリエーリらと娯楽音楽を共作したことから本格的にスタートします。

1570年代末までにはヴェネツィア楽派との関係を深め、バルダッサーレ・ロンゴーニ伯爵に同行してベルガモやブレーシャを訪れるなど、各地で音楽的知識や経験を積みました。1581年から1584年までサロー大聖堂の教会楽長を務め、その後もレッジョ・ネッレミリアの大聖堂で聖歌隊長として活躍しました。1586年にはコッレッジョに移り、同地の大聖堂で参事会員となります。この時期に、ヴェッキは精力的に作曲活動に取り組みますが、音楽の中心地であるローマ、ヴェネツィア、フィレンツェ、フェッラーラから離れていることに不満を感じていたようです。そのため、モデナに帰郷し、聖歌隊の監督に就任しました。

しかし、経済的には苦しい状況が続き、そのことは書簡や作品の中でも触れられています。1597年にはヴェネツィアを訪れ、自身の作品集である『カンツォネッタ集』を出版しました。また、過去16年間に作曲した作品群も同時期に発表しており、その中には、最も有名な作品である《ランフィパルナーソ》も含まれています。1598年にはチェーザレ・デステ大公によって宮廷楽長に任命され、1600年には大公に従いローマとフィレンツェを訪れ、ヤコポ・ペーリの歌劇《エウリディーチェ》を鑑賞しています。その後、モデナに戻り、生涯を大聖堂の職務に捧げました。

ヴェッキは、マドリガル作曲家として知られていますが、その中でも特筆すべきは「マドリガル・コメディ」という独自のジャンルの創始です。このジャンルは、16世紀末に流行した軽快で劇的な娯楽音楽であり、オペラの起源の一つとされています。オペレッタの母胎と捉えることもできます。その他にも、カンツォネッタ集やマドリガーレ、ヴェネツィア楽派の影響を受けた複合唱技法を用いた宗教曲など、多岐にわたる作品を残しました。宗教曲においては、ジョヴァンニ・ガブリエーリの影響を受け、2拍子と3拍子の明確な交替を好んで使用しました。

ヴェッキの音楽は、ルネサンス音楽の洗練された美しさと、演劇的な要素を融合させた独自のものであり、後世の音楽家たちに大きな影響を与えました。彼の作品は、今日でも演奏会や録音で広く親しまれています。

[外部リンク]
オラーツィオ・ヴェッキ作曲の楽譜 - Choral Public Domain Library (ChoralWiki)
オラーツィオ・ヴェッキの楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト

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