クラウディオ・メールロ

（Claudio Merulo、別名：メルロッティ、メルルス、クラウディオ・ダ・コレッジオ）

概要

クラウディオ・メールロ（1533年 4月8日 - 1604年 5月4日）は、イタリアのルネサンス後期に活躍した作曲家、オルガン奏者、そして音楽出版者です。コッレッジョに生まれ、パルマでその生涯を終えました。彼の名は特に鍵盤楽器のための独創的な作品や、ヴェネツィア楽派特有のコーリ・スペッツァーティ（複数の合唱隊を用いたスタイル）による声楽曲によって知られています。もともとの姓は「小さなクロウタドリ」を意味するメルロッティでしたが、ヴェネツィアの文化サロンで名声を得るにつれて、よりラテン語風のメールロに改めたとされています。

生涯

メールロの若年期については、マドリガーレ作曲家のトゥグデュアル・メノンやオルガン奏者のジローラモ・ドナートに師事したこと以外、詳しい記録は多くありません。しかし、1555年にはすでにヴェネツィアで重要な人物の法廷証言を行っており、この時期に当地の有力者と近い関係にあったことがうかがえます。サン・マルコ寺院で高名なジョゼッフォ・ツァルリーノのもとで学んだ可能性も指摘されていますが、確たる証拠はありません。同時期にコスタンツォ・ポルタと知り合い、その深い友情は終生続きました。

1556年、メールロはブレシアの旧大聖堂でオルガニストの職を得ますが、そのわずか1年も経たない1557年には、イタリアで最も権威ある音楽的地位の一つとされるヴェネツィアのサン・マルコ寺院のオルガニストに任命されます。これは、彼が傑出したオルガン演奏技術を持ち、かつヴェネツィアの有力者からの信頼を得ていた証でしょう。この時、後にサン・マルコ寺院で同僚となるアンドレーア・ガブリエーリを抑えての就任でした。当時のサン・マルコ寺院には二つのオルガンがあり、メールロが当初任命されたのは小さな第2オルガンで、第1オルガンの奏者はアンニーバレ・パドヴァーノが務めていました。

1566年にパドヴァーノがヴェネツィアを離れると、メールロは第1オルガンの奏者に昇進し、アンドレーア・ガブリエーリが第2オルガンに就任しました。1560年代から70年代にかけて、メールロはヨーロッパ中で最も尊敬されるオルガン奏者となり、北イタリアにおいては作曲家としても絶大な影響力を持つ存在となりました。彼は共和国の顔として公的な場にも度々登場し、1574年にはフランス王アンリ3世のための祝祭音楽を作曲し、1579年にはトスカーナ大公フランチェスコ・デ・メディチとビアンカ・カッペッロの結婚式にヴェネツィア共和国の特使として派遣されました。また、フェラーラも訪問しています。1583年には最初の妻バルバラを亡くしました。

1584年、メールロは突如としてサン・マルコ寺院の輝かしい地位を辞しました。その理由は不明ですが、同年末にはパルマのファルネーゼ家宮廷に仕えていた記録があります。高額な報酬で招聘された可能性が考えられます。パルマに移る前に一時的にマントヴァでも活動したという説もありますが、確証はありません。1586年には、新パルマ公アレッサンドロ・ファルネーゼに対し、引き続き雇用してくれるよう嘆願する書簡を送っており、この頃もパルマに留まっていたと考えられます。

1587年にパルマの聖堂のオルガン奏者に任命され、1591年からはステッカータの聖母マリア教会のオルガニストも兼任するようになります。1593年には、ステッカータ教会のオルガンをブレシアのオルガン製作家コスタンツォ・アンテニャティに改変させています。これは、ヴェネツィアでの経験を踏まえ、自身の発展的な作曲スタイルに合わせてオルガンの特性を変化させようとした、メールロの音楽思想を示す重要な出来事と考えられています。ボローニャ派の画家アゴスティーノ・カラッチとも親交がありました。

晩年にはヴェネツィアやローマを何度か訪れ、オルガン音楽の傑作とされる2巻の『オルガンのためのトッカータ』を出版しました。私生活では、1588年にパルマの裕福な家庭出身のアマビリア・バンツォーラと再婚しています。1604年 5月4日、パルマで71歳の生涯を閉じました。遺体はパルマ大聖堂内のチプリアーノ・デ・ローレの墓近くに埋葬されました。後には妻アマビリアと娘アウレリア・マリアが残されました。

作品と影響

メールロの音楽で最も特筆されるのは、その革新的な鍵盤作品です。特に彼のトッカータは高く評価されており、初期の形式において、対位法的な部分と、急速な走句を多用する華麗なパッセージワークの部分とを、初めて明確に対比させたことで知られています。また、トッカータやカンツォーナ形式の作品の中に、リチェルカーレ風のフーガ的な楽想を挿入する手法も多用しました。彼の鍵盤作品はポリフォニー的な響きから始まり、次第に装飾が増加し、最終的に高度な技巧を要求するパッセージへと発展していく特徴を持ちます。後期の作品には、バロック音楽における主題（モチーフ）の展開にも繋がるような装飾技法が見られます。彼はしばしば伝統的な声部進行の規則に縛られず、ルネサンス後期のマドリガーレに見られるような豊かな感情表現を追求しました。

メールロの鍵盤作品は極めて大きな影響力を持ちました。その影響は、ヤン・ピーテルスゾーン・スウェーリンクやジローラモ・フレスコバルディといった後世代の重要な作曲家の作品に明確に見出すことができます。特にスウェーリンクを通じて、ヨハン・ゼバスティアン・バッハへと繋がる北部ドイツのオルガン音楽の発展に重要な役割を果たしたと言えるでしょう。

また、ジローラモ・ディルータによる鍵盤演奏に関する理論書『トランシルヴァニア人』（1593年出版）がメールロに献呈されている事実は、彼が同時代の音楽家たちからルネサンス期における鍵盤楽器の第一人者として広く認められていたことの象徴となっています。

鍵盤音楽の功績があまりに大きいため、声楽曲の作曲家としての重要性は見過ごされがちですが、彼はヴェネツィア楽派の一員として、合唱作品、特に複数の合唱隊を用いた複合唱様式のモテットなどでも重要な貢献をしました。マドリガーレも積極的に作曲・出版しており、複数の声部によるマドリガーレ集を数巻刊行しています。

総じて、クラウディオ・メールロはルネサンス期において、特に鍵盤音楽の発展に決定的な役割を果たした革新者であり、その影響は時代と地域を超えて後世の偉大な音楽家たちへと受け継がれていきました。

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