カスリハタ

カスリハタ（学名：Epinephelus tukula）は、スズキ目ハタ科に分類される大型の海水魚です。その独特な外見から、英名では「Potato Grouper」とも呼ばれ、淡い茶色みがかった灰色の体表に、まるでジャガイモのような大小の黒い斑点が散りばめられているのが最大の特徴となっています。この魚は、インド洋から太平洋にかけての広範な海域に生息しており、1959年にザンジバルの研究機関によって新種として発表されました。

分布

カスリハタは、インド太平洋の広範囲にわたる海域で見られます。具体的には、アフリカ大陸東岸の紅海から南アフリカのクワズール・ナタール州まで、マダガスカル島、セーシェル諸島、モーリシャス、レユニオン島といったインド洋西部から、インド西部、スリランカ沖、東はソロモン諸島、南はオーストラリア、北は日本の南部にまで分布が確認されています。しかしながら、この広い生息域にもかかわらず、多くの地域では比較的珍しい魚とされています。インド洋西部では比較的多く報告される傾向があります。日本においては、太平洋側の南日本沿岸で広く見られますが、琉球列島ではあまり頻繁には見かけられません。オーストラリアでは、西オーストラリア州のシャーク湾からクイーンズランド州のモートン湾にかけての北部沿岸、特に有名なグレートバリアリーフ周辺でもその姿を確認することができます。なお、ペルシャ湾での生息記録はありません。

形態

カスリハタは、大型になるハタ類の典型的な、がっしりとした体形をしています。体長は体高のおよそ2.9倍から3.5倍程度です。頭部の輪郭は比較的なだらかで、目の間はわずかに盛り上がっており、背側は直線的です。頭部の高さは低めで、吻（口先）はやや尖って見えます。前鰓蓋の縁は丸みを帯びるか、角ばった形状に近く、わずかに鋸歯状になっています。鰓蓋の上縁は直線的です。背鰭には11本の硬い棘条と、通常14本から15本の柔らかい軟条があります。特に、棘条と棘条の間にある鰭膜には、やや目立つ切れ込みが入っています。臀鰭は3本の棘条と8本の軟条から構成されます。尾鰭の形は丸みを帯びています。体色は、淡い茶色がかった灰色を基調とし、全身に大小さまざまな黒い斑点が散りばめられています。さらに、目の周りからは黒い線が放射状に伸びており、鰭にも細かい黒い斑点が点在しています。この魚は非常に大きく成長する可能性があり、記録されている最大サイズは全長200 cm、体重110 kgにも達することがあります。

生態

カスリハタは、沿岸域のサンゴ礁や、比較的潮流が強い岩礁域を主な生息場所としています。成長段階によって生息する水深が異なり、若い個体（幼魚）はより浅い海域を好み、サンゴ礁に囲まれた潮だまりなどでもよく見かけられます。一方、成熟した成魚は、水深10メートルから150メートルといった比較的深い場所で生活しています。この魚は基本的に単独で行動する性質を持ち、通常は自身の縄張りともいえる一定の行動範囲内で活動します。捕食方法は、隠れて獲物を待ち伏せるスタイルです。主な餌は、自分よりも小さな魚類、カニやイセエビなどの甲殻類、イカやタコなどの頭足類、さらには小さなエイなども捕食することが知られています。サンゴの隙間や岩陰などに身を潜め、獲物が不用意に近づいてくると瞬時に飛び出して襲いかかり、丸呑みにしてしまいます。自身の縄張りに入ってきた他の個体に対しては攻撃的な一面を見せることもありますが、その縄張りの範囲はそれほど広くないようです。繁殖に関しては、おおよそ12歳頃に性的に成熟すると考えられており、この時期の体長は90 cmから99 cm、体重は16 kgから18 kg程度になります。若い個体の群れは観察された例がありますが、成魚が集まって産卵を行う様子（集団産卵）はまだ確認されていません。ただし、水槽内での飼育実験において、メスからオスへと性別が変化する現象が観察されたことから、他の多くのハタ科魚類と同様に、カスリハタも成長過程で性別が変化する雌性先熟の雌雄同体である可能性が高いと考えられています。

人との関わり

カスリハタは、その分布域全体で漁獲の対象となっています。特に香港や中国本土では食用魚として流通し、市場で販売されていますが、現地では一般的な魚と比べるとそれほど人気が高いわけではないようです。日本では、主に沖縄県や鹿児島県といった南西諸島を中心に食用として流通しており、比較的高価な魚として扱われています。大型になることから、釣りや水中銃による漁獲が行われることもあります。この魚は、その大きな体や比較的遅い性成熟などの特性から、乱獲によって資源が減少しやすい（脆弱である）と考えられています。しかしながら、現在のところは絶滅の危機に瀕している状況ではないと判断されており、国際自然保護連合（IUCN）のレッドリストでは「低危険種（Least Concern）」に指定されています。一部の国や地域では、資源保護のための措置が取られており、南アフリカ共和国やオーストラリアでは保護対象となっています。

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