ハタ科

ハタ科（Epinephelidae）とは

ハタ科は、スズキ目スズキ亜目に属する魚類のグループです。以前は、より広範な範囲でSerranidae科とされていましたが、分子系統解析の結果、多系統群であることが判明し、ハタ科（Epinephelidae）、アラ科（Niphonidae）、ハナダイ科（Serranidae）の3科に分割されました。さらに、ハナダイ科からAnthiadidae科、ハタ科からLiopropomatidae科とGrammistidae科を分割する見解もあります。この記事では、旧ハタ科Serranidaeの範囲を基に解説します。

概要

ハタ科は、3つまたは4つの亜科に分類され、60以上の属と450種ほどが知られています。このグループには、アカハタ、マハタ、クエ、タマカイなどのハタ類だけでなく、ハナダイやサクラダイ、ヌノサラシといった多様な魚種が含まれます。

分布は、熱帯から温帯の海に広がり、浅い海の岩礁やサンゴ礁に多く生息しますが、マングローブなどの汽水域や水深200m以深の深海にも生息する種類がいます。外見は亜科によって大きく異なり、体長も数cmのハナダイ類から2mを超えるタマカイまで様々です。体色や模様も種類や成長段階によって多彩です。

多くの種類が雌性先熟の性転換を行うことが知られており、若い個体はメスが多く、成熟して大型になるにつれてオスになる割合が増えます。食性は肉食性で、他の魚類や甲殻類、頭足類などを捕食します。大型のハタ類は、サメ類と並ぶ強力な捕食者であり、岩礁やサンゴ礁の食物連鎖で上位に位置します。

利用

ハタ科の魚は、多くの種類が食用として漁獲され、特にハタ類は高級食材として扱われます。しかし、バラハタやオオアオノメアラなど、シガテラ毒を体内に蓄積する種類もいるため、注意が必要です。ヌノサラシ類は、一般的に食用にはされません。

香港や広州では、ハタ類は「石斑魚」（セッパーンユー）と総称され、蒸し魚や揚げ物などで食べられます。近年では中国全土で消費が拡大しており、養殖も盛んになっていますが、養殖が難しい種も存在します。香港では、絶滅が危惧される種を食べないよう呼びかけも行われています。

香港で特に珍重されるハタは、「老鼠斑」（ロウシューパーン）と呼ばれるサラサハタ、「紅斑」（ホンパーン）と呼ばれるキジハタ、「東星斑」（トンセンパーン）と呼ばれるスジアラ（アカジンミーバイ）です。

分類

広義のハタ科Serranidaeは、ハナダイ亜科、ハタ亜科、ヒメコダイ亜科、ヌノサラシ亜科に分類されていましたが、現在ではヌノサラシ亜科はヌノサラシ科Grammistidaeとして独立する見解もあります。また、ハナダイ亜科とヒメコダイ亜科を別科とする場合、Serranidaeの和名はハナダイ科となり、ハタ科にはEpinephelidaeの学名が当てられます。

アラは、かつてハタ亜科に分類されていましたが、分子系統解析の結果、独立したアラ科Niphonidaeとされました。狭義のハタ科Epinephelidaeは、キハッソク亜科、ハタ亜科、ヌノサラシ亜科、ハナスズキ亜科の4亜科に分類され、これらの亜科とアラ科は、広義のハタ科ではハタ亜科の族とされていました。

以下に、広義のハタ科に分類される各亜科の代表的な属と種類を紹介します。

ハナダイ亜科 (Anthiadinae)

ハナダイ亜科は、約20属170種が知られています。ほとんどの種類が小型で、体長は40cm程度のアカイサキを除き、15cmを超えることは稀です。鮮やかな色彩が特徴で、サンゴ礁や岩礁に群れで生息します。口は小さく、動物性プランクトンを捕食します。美しい魚ですが、飼育は一般的に難しいとされています。

主な属と種類:

アカイサキ属 Caprodon - アカイサキ
ミナミハナダイ属 Luzonichthys - ミナミハナダイ、ソメワケミナミハナダイ
イトマンオオキンギョ属 Meganthias - イトマンオオキンギョ
ハナゴイ属 Mirolabrichthys - ハナゴイ
アカネハナゴイ属 Nemanthias - フタイロハナゴイ、アカネハナゴイ
イッテンサクラダイ属 Odontanthias - マダラハナダイ、ハタタテハナダイ
イズハナダイ属 Plectranthias - チゴハナダイ、アズマハナダイ、カスミサクラダイ
ナガハナダイ属 Pseudanthias - キンギョハナダイ、ナガハナダイ
アカボシハナゴイ属 Pyronotanthias - アサヒハナゴイ、アカボシハナゴイ
ホカケハナダイ属 Rabaulichthys - ホカケハナダイ
サクラダイ属 Sacura - サクラダイ
スミツキハナダイ属 Selenanthias - スミツキハナダイ、キイハナダイ
ハナゴンベ属 Serranocirrhitus - ハナゴンベ
ヒメハナダイ属 Tosana - ヒメハナダイ
イトヒキハナダイ属 Tosanoides - イトヒキハナダイ、キシマハナダイ
Caesioperca属 - バタフライパーチ、バーバーパーチ
Hypoplectrodes属 - レッドバンデッドパーチ、ブラックバンデッドシーパーチ

ヒメコダイ亜科 (Serraninae)

ヒメコダイ亜科は、約13属75種が知られています。大部分が東太平洋や大西洋に分布し、日本近海ではやや深い海の砂泥底にヒメコダイ属の魚が分布するのみです。ハタ亜科などをハタ科Epinephelidaeに分ける場合、ハナダイ亜科とともにハナダイ科Serranidaeに分類されます。

主な属と種類:

ヒメコダイ属 Chelidoperca - ヒメコダイ、ホシヒメコダイ、ミナミヒメコダイ、トサヒメコダイ
Serranus属（ヒメスズキ属）
Paralabrax属

ハタ亜科 (Epinephelinae)

ハタ亜科は、約26属190種が知られ、いわゆるハタ類が含まれます。口が大きく、下顎が上顎より前に突き出しています。成魚の体長は10cm程度のものから2mを超える大型種まで様々です。単独で生活し、海底近くをあまり離れません。食用や観賞用として利用される種類が多くいます。

従来のハタ亜科がハタ科Epinephelidaeに昇格したことにより、ハタ族Epinepheliniが狭義のハタ亜科となりました。マハタとマハタモドキは、以前はEpinephelus属（旧マハタ属）に分類されていましたが、現在はHyporthodus属として独立しています。

主な属と種類:

クロハタ属 Aethaloperca - クロハタ
アズキハタ属 Anyperodon - アズキハタ
ユカタハタ属 Cephalopholis - ユカタハタ、アザハタ、ニジハタ、アカハナ
サラサハタ属 Cromileptes - サラサハタ
アカハタ属 Epinephelus - クエ、タマカイ、オオスジハタ、カンモンハタ、カスリハタ、アカハタ、アオハタ、キジハタ、ヤイトハタ
タテスジハタ属 Gracila - タテスジハタ
マハタ属 Hyporthodus - マハタ、マハタモドキ
スジアラ属 Plectropomus - スジアラ、オオアオノメアラ、コクハンアラ
ヤマブキハタ属 Saloptia - ヤマブキハタ
トビハタ属 Triso - トビハタ
バラハタ属 Variola - バラハタ、オジロバラハタ

キハッソク亜科 (Diploprioninae)

キハッソク亜科は、かつてハタ亜科のキハッソク族とされていました。日本では3属3種が知られています。ハナスズキ亜科とともにLiopropomatidae科とする見解もあります。

主な属と種類:

キハッソク属 Diploprion - キハッソク
ルリハタ属 Aulacocephalus - ルリハタ
ヤミスズキ属 Belonoperca - ヤミスズキ

ハナスズキ亜科 (Liopropomatinae)

ハナスズキ亜科は、かつてハタ亜科のハナスズキ族とされていました。日本ではハナスズキ属のみが知られています。キハッソク亜科とともにLiopropomatidae科とする見解もあります。

主な属と種類:

ハナスズキ属 Liopropoma - ツルグエ、ハナスズキ
Bathyanthias属
Jeboehlkia属
Rainfordia属 - フラットヘッドパーチ

ヌノサラシ亜科 (Grammistinae)

ヌノサラシ亜科は、かつてハタ亜科のヌノサラシ族とされていました。ヌノサラシ科として別の科に分類されることもあります。約8属20種が知られており、体型はハタ亜科の魚に似ていますが、体長は10-30cm程度です。敵に襲われると、皮膚から毒を含む粘液を分泌して身を守ります。この粘液が石鹸のように泡立つため、英語では「ソープフィッシュ」と呼ばれます。一般に食用にはされません。

主な属と種類:

ヤマトトゲメギス属 Aporops - ヤマトトゲメギス
ヌノサラシ属 Grammistes - ヌノサラシ
ジャノメヌノサラシ属 Grammistops - ジャノメヌノサラシ
アゴハタ属 Pogonoperca - アゴハタ
トゲメギス属 Pseudogramma - トゲメギス
クレナイトゲメギス属 Suttonia - クレナイトゲメギス、カザンクレナイトゲメギス

アラ科 (Niphonidae)

アラ科は、かつてハタ亜科のアラ族とされていましたが、分子系統解析の結果、1属1種の単型の科とされました。

主な属と種類:

アラ属 Niphon - アラ

脚注

関連項目

魚類
* 魚の一覧

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