カズ山

カズ山（イダ山）の概要

カズ山（トルコ語: Kaz Dağı）は、トルコ北西部に位置し、古代ギリシアではイダ山（Ἴδη, Ἴδα）として知られていました。トロイア遺跡の南東、エドレミット湾の北岸にそびえ立ち、その歴史と伝説に彩られた山です。トルコ語の発音をカタカナ表記したカズ・ダーという呼び方も用いられます。

地理

カズ山はバルケスィル県エドレミット地区の北部に広がる約700km²の山塊です。山麓には小さな村々が点在し、山から流れ出る河川は主に南のエドレミット湾へと注ぎます。海岸線は起伏に富み、「オリーブのリヴィエラ」として親しまれています。一方で、カラメンデレス川（古代のスカマンドロス川）は東に流れ、その谷はかつて「トロイの谷」と呼ばれていました。1993年以降、カズ山の2.4km²の地域はカズ山国立公園として保護されています。

森林限界が比較的低いため、山頂は風が強く、露出した地形が広がっています。しかし、温暖な地中海性気候と冷涼な中央アナトリアの気候が交わる斜面には、氷河期以降に孤立した豊かな固有植物が生息しています。標高の低い地域は、夏は暑く乾燥し、乾季は5月から10月まで続きます。年間降雨量は平均631mmから733mmで、年間平均気温は15.7℃、エドレミットでの過去最高気温は43.7℃を記録しています。山頂付近の森林は主にコーカサスモミで構成されています。

伝説と神話

崇拝の対象

古代、イダ山はキュベレー崇拝の地として知られ、ローマでは「Idaea Mater（イデーア・マーテル）」という称号で崇められていました。また、『シビュラの書』は、大キュロスの時代にイダ山のゲルギスで生まれたと伝えられています。この書はヘレスポントのシビュラによって書かれ、ゲルギスのアポローン神殿に保管されていました。その後、エリュトライに移され、エリュトライのシビュラの神託として有名になりました。

イーダイアー

イーダイアーは、河神スカマンドロスの妻であり、トロイア王テウクロスの母です。スカマンドロス川（現在のカラメンデレス川）は、イーデー山からトロイアの平原を通り、北のヘレスポントへと流れています。

ガニュメーデース

ゼウスは、トロイアの王トロースまたはラーオメドーンの息子ガニュメーデースを気に入り、鷲の姿でイーデー山から誘拐し、オリンポス十二神の酌人にしました。

パリス

河神ケブレーンの娘であるニュンペーたちは、イーデー山によく訪れていました。その一人、オイノーネーは予言と薬草の力を持っており、羊飼いをしていたパリスの妻でした。パリスは実はトロイアの王子でしたが、生まれた時にトロイアに破滅をもたらすと予言されたため、聖なる斜面に捨てられました。しかし、牝熊（アルテミスの象徴）に乳を授けられた後、羊飼いに育てられ成長しました。

ペーレウスとテティスの結婚式で、不和の女神エリスが投げ入れた「最も美しい女神に」と書かれたリンゴを巡って、アテナ、ヘラ、アフロディーテが争い、パリスが審判をすることになりました。パリスはアフロディーテを最も美しい女神に選び、アフロディーテはヘレネーを花嫁として与えましたが、その結果、トロイア戦争が勃発することになります。

アンキーセース

トロイアの王子アンキーセース（アイネイアースの父）も、アフロディーテに誘惑された時、イーデー山で羊の世話をしていました。

トロイア戦争

イーデー山はホメロスの叙事詩にも登場し、オリンポスの神々が戦争の状況を見守るために山頂に集まったとされています。また、女神たちの聖地として、ヘラがゼウスを誘惑し、気をそらすことで、ポセイドンがギリシア軍を支援する時間を与えたと描かれています。

トロイア包囲中、アキレウスがアイネイアースとの決闘前にイーデー山に言及し、アポロドーロスの『ビブリオテーケー』にもその逸話が残っています。アキレウスはギリシア軍の将軍たちと共に田園地帯を荒らし、アイネイアースの牛を盗むためにイーデー山へ向かいましたが、アイネイアースは逃げ、アキレウスは牛飼いたちとプリアモスの息子メーストールを殺害しました。

パリスの死後、プリアモスの息子ヘレノスはヘレネーを妻にしようとしてデーイポボスに敗れ、イーデー山に逃げますが、オデュッセウスに捕らえられます。

歴史

青銅器時代には、この地域は多様な民族が居住していました。現在のチャナッカレ県アイワジュックには、ギリシア人がテウクリと呼んでいた、クレタ島出身のチェケル人がいたとされています。クレタ島にもイディ山（イデ山、イーデー山、イダ山、ギリシャ語：Ίδη）という山があります。

鉄器時代には、ヘロドトスの『歴史』に、クセルクセス1世がイーデー山を行進したと記述されています。

カズ山は、その豊かな自然と歴史、そして神話が融合する魅力的な場所です。多様な生態系、古代からの信仰の対象、トロイア戦争の舞台としての役割など、多くの側面を持ち合わせています。

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