カタギン

カタギン (Qatagin)

カタギン（モンゴル語: Qatagin, 中国語: 哈答斤）は、モンゴル部に属する遊牧集団の名称です。『元史』などの漢文史料では、合答斤、合塔斤、合答吉、哈答吉、哈塔斤、合底忻などと様々な表記が見られます。『集史』ではQataqinと記され、書籍によってはカダギン(Qadagin)、カダキン(Qadaqin)とも表記されます。

カタギンの起源

『元朝秘史』によると、カタギンの祖先は、ボルテ・チノ（蒼き狼）の子孫であるドブン・メルゲンとその妻アラン・ゴアに遡ります。ドブン・メルゲンの死後、アラン・ゴアは光の精の子を宿し、ブグゥ・カタギ、ブカトゥ・サルジ、ボドンチャルの三兄弟を産みました。これらの兄弟の子孫が、それぞれカタギン氏、サルジウト氏、ボルジギン氏になったと伝えられています。

後にモンゴル部ではボルジギン氏が支配氏族となり、その一派であるキヤト・ボルジギン氏からチンギス・カンが登場し、モンゴル帝国を建国しました。カタギン氏とサルジウト氏は、ボルジギン氏に近しい一族として、モンゴル帝国-大元ウルスにおいても特別な位置づけにありました。彼らは「国家（帝室）と同源にして異流」、「[サルジウトの]祖先は国家（帝室）と同じ出自で臣族の中でも最も高貴」と表現され、その出自の高さが意識されていました。

12世紀のモンゴル部において、カタギン氏とサルジウト氏はかなり強力な氏族であり、『金史』には「合底忻部」、「山只昆部」として登場します。これらの部族は北方の有力部族であり、他の勢力に属さず、タタル部やコンギラト部の間を往来し、しばしば金朝の辺境を侵略したと記録されています。1198年には、金の王族である完顔宗浩が軍を率いて忒里葛山でベルグテイ率いるカタギンと、クビライ率いるサルジウトの連合軍を破ったという記録も残っています。

これらの記録から、当時のカタギン氏とサルジウト氏の遊牧地は、フルンボイル地方の東北方、ハイラル川・アルグン川方面であったと推測されています。アルグン川一帯はモンゴル部の源住地ですが、ブルカン・カルドゥンを本拠地とするボルジギン氏の遊牧地からは遠く離れており、この頃にはカタギン氏とサルジウト氏とボルジギン氏の間には密接な関係はなかったと考えられています。

チンギス・カンの時代

チンギス・カン率いるキヤト・ボルジギン氏から離れて遊牧していたカタギン氏は、チンギス・カンに対して必ずしも友好的ではありませんでした。カタギン部族長のバクゥ・チョロギとサルジウト部族長のチルギダイ・バートルは、タイチウト、ドルベン、タタルといった諸族と協力してジャムカをグル・カンに擁立し、チンギス・カン率いるキヤト・ボルジギン氏と対立しました。

カタギン氏とサルジウト氏は、チンギス・カン率いる軍隊と何度も戦いましたが、最終的にナイマン部が敗れた際にチンギス・カンに降伏しました。しかし『集史』によると、長期間にわたる戦争によってカタギン氏とサルジウト氏の兵士の多くが殺され、生き残った者は奴隷の身分に落とされました。また、この時チンギス・カンは「[我が一族は]彼等の娘は娶らないし、[彼等に]娘を与えもしない」と語ったと伝えられています。実際に、1206年にチンギス・カンがモンゴル帝国を建国した際、カタギン氏とサルジウト氏出身の人物で千人隊長に任じられた者はいませんでした。

チンギス・カンによるモンゴル帝国建国後、サルジウト部は幾人かの人材を輩出しましたが、カタギン部出身の人物についてはほとんど記録が残されていません。僅かに、オルクという人物が「カダギン」と名乗った事例が知られている程度です。

系図

アラン・コアのカタギン氏族の祖はブグゥ・カタギです。

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