ドルベン

ドルベン氏とは：モンゴル遊牧集団の歴史と系譜

ドルベン（Дөрвөн Dörben）は、モンゴル高原に居住していたモンゴル系の遊牧集団です。「ドルベン」とはモンゴル語で「四」を意味し、複数の「ドルベト」という集団名も存在しますが、これらはドルベンとは直接的な関係はありません。

起源

『元朝秘史』によれば、ドルベンの起源は、ボルテ・チノの子孫であるドア・ソコルに遡ります。ドア・ソコルには4人の息子がおり、彼らは父の死後、叔父のドブン・メルゲンとその妻アラン・コアから独立し、新たな遊牧集団を形成しました。この4人兄弟を始祖とすることから、「ドルベン氏（ドルベン・イルゲン）」と呼ばれるようになったと伝えられています。

モンゴル部族におけるドルベンの位置

12世紀末、モンゴル部族内では、チンギス・カンの曾祖父カブル・カンを始祖とするキヤト氏と、アンバガイ・カンを始祖とするタイチウト氏が主導権を争っていました。ドルベン氏はタイチウト氏と友好的な関係にありましたが、チンギス・カンがキヤト氏の長として台頭すると、タイチウト、カタギン、サルジウト、コンギラトといった氏族と共にジャムカを推戴し、チンギス・カンと敵対しました。

しかし、1202年のクイテンの戦いで敗北し、反チンギス・カン連合は劣勢となり、1204年のナイマン部族滅亡時に、ドルベン氏族もチンギス・カンに投降することになりました。

モンゴル帝国におけるドルベン氏

モンゴル帝国に仕えたドルベン氏出身者は少なく、詳細も不明な点が多いです。しかし、千人隊長（ミンガン）に任じられたドスカ、インド侵攻に派遣されたドルベイ・ドクシン、チンギス・カンの親衛千人隊の百人隊長を務めたブルキ・バウルチといった人物が記録に残っています。ブルキ・バウルチの孫ボロトは、クビライに仕え、大元ウルス初期の高官として活躍しました。また、ボロトはフレグ・ウルスに移住し、『集史』の編纂にも携わったことで知られています（ペルシア語名：プーラード・アカ）。

ドルベン氏の研究における見解

モンゴル史研究者の村上正二は、『元朝秘史』に記された伝承について、ボルテ・チノからドア・ソコル、ドブン・メルゲン兄弟に至る系譜は、モンゴル部族拡大の過程で後から付け加えられたものではないかと指摘しています。村上氏は、ドア・ソコルを本来はモンゴル部族によって征服されたウリヤンカン部族の族霊（オンゴン）であると推測し、ドルベン氏はウリヤンカン部族の分派である狩猟採集民であった可能性を示唆しています。

まとめ

ドルベン氏は、モンゴル高原の歴史において、独自の起源と変遷を辿った遊牧集団です。モンゴル帝国の成立過程においては、チンギス・カンと敵対する時期もありましたが、最終的にはその支配下に入り、帝国の一翼を担いました。ドルベン氏に関する史料は限られていますが、彼らの足跡はモンゴル史研究において重要な要素の一つとなっています。


参考文献

志茂碩敏『モンゴル帝国史研究 正篇』東京大学出版会、2013年
村上正二訳注『モンゴル秘史 1巻』平凡社、1970年
村上正二訳注『モンゴル秘史 2巻』平凡社、1972年
村上正二訳注『モンゴル秘史 3巻』平凡社、1976年
* 村上正二『モンゴル帝国史研究』風間書房、1993年

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