カッワーリー

カッワーリーとは

カッワーリー（qawwali）は、イスラム神秘主義であるスーフィズムと密接な関係を持つ宗教的な歌唱ジャンルです。主に南アジアのパキスタンや北インドを中心に根付いており、ウルドゥー語、ペルシア語、パンジャービー語、ヒンディー語など、地域や時代に応じた様々な言語で歌われます。

起源と歴史

カッワーリーという名称は、アラビア語で「言葉」を意味する「コール（qaul）」に由来するとされています。このコールは、アラブ古典音楽の形式において最初の楽章名でもありました。さらに、「コール」には、クルアーンの詩句や預言者ムハンマドの言葉といった、宗教的なメッセージを込めたアラビア語という意味合いも含まれています。中世には、こうした「コール」を旋律に乗せて歌う者が現れ、彼らは「カッワール」と呼ばれました。現在でも、カッワーリーの歌い手はこの名で称されています。

この「コール」の歌唱が、スーフィーたちによって南アジアへと伝えられる中で、現地の音楽や文化と融合し、現在のカッワーリーの形式へと発展していったと考えられています。

カッワーリーの創始者として広く認知されている人物に、13世紀から14世紀にかけて活躍した詩人アミール・フスローがいます。彼の伝記によれば、パキスタン中部ムルターンの聖者廟で歌われていたアラビア語の神秘的な詩歌に感銘を受け、スーフィズムの儀礼音楽としてこれを取り入れたのが始まりとされています。フスローは、西アジアと南アジア双方の文化に精通し、優れた詩才を持っていました。彼はカッワーリーで歌われる多くの重要な詩句を作り出し、その音楽に文学的な深みを与えました。

特徴

カッワーリーは、主にスーフィー聖者の霊廟（ダルガー）を主な演奏場所とします。特に木曜日の夜や、聖者の命日を祝う祭典（ウルス）の時期には、ダルガーでのカッワーリーの集会が最高潮に達します。集まった人々はカッワーリーの歌声に耳を傾けながら、神への真実の愛による陶酔状態を目指し、少しでも神に近づこうと願います。このように、カッワーリーはスーフィズムの理想を体現するための、神聖な音楽として位置づけられています。

パキスタンでは、カッワーリーは国民的かつ非常に人気のある大衆音楽であり、バザールで容易に音楽メディアを入手できるだけでなく、テレビやラジオなどのマスメディアでも頻繁に放送されています。

カッワーリーの演奏においては、メロディーやリズムはもちろんのこと、歌われる神秘的な詩のメッセージ性が非常に重要です。歌詞の内容は、主に以下の3種類に分類されます。

ハムド: 唯一絶対の神アッラーを讃える賛歌。
ナート: 預言者ムハンマドを讃える賛歌。
* マンカバト: スーフィーの聖者たちを讃える賛歌。

これらの歌は、一般的にハムド、ナート、マンカバトの順に演奏されるのが習わしです。

演奏される楽曲のレパートリーは幅広く、古代の詩や現代詩、さらにはカッワーリーのために創作された大衆詩などが用いられます。これらの多くは定型詩の形式をとっており、ルバーイー（四行詩）、マスナヴィー（物語詩）、ガザル（恋愛詩）といった詩形が見られます。

19世紀以降、スーフィズム自体は衰退傾向にあった時期もありますが、その音楽であるカッワーリーの人気が衰えることはありませんでした。むしろ、宗教的な色彩が薄れたり、全くない娯楽性の強い世俗的な歌謡（フィルミー・カッワーリーなど）としても発展し、現代でも創作され続けています。

ヒンドゥー教との関係

イスラム神秘主義であるスーフィズムと、ヒンドゥー教の神秘主義思想であるバクティ思想の間には、成立過程で相互に影響があったとされる共通点が存在します。それぞれの音楽形式であるカッワーリーとバクティ・サンギートにも、歌唱を精神修行や宗教儀礼の一部とする点や、音楽構造上の類似点が見られます。文化的には、ヒンドゥー教徒のカッワールが人気を博したり、ウルスの際に多数のヒンドゥー教徒がカッワーリーを聞くために霊廟を訪れたりと、両宗教の間で重なり合う部分が多く見られます。

著名なカッワーリー歌手

国際的に最も知られているカッワーリー歌手の一人に、ヌスラト・ファテー・アリー・ハーン（1948-1997）がいます。

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