カバネ

カバネ：古代日本の氏族と称号

古代日本のヤマト王権において、天皇は有力な氏族に「カバネ」と呼ばれる称号を与えました。カバネは、その氏族の地位、権威、性格などを示すもので、社会的な位置づけを明確にする役割を果たしていました。本稿では、カバネの起源、制度、種類、そして明治時代の廃止に至るまでの歴史を詳細に解説します。

カバネの起源と成立

カバネの正確な起源は不明です。しかし、6世紀半ば頃までには制度として確立していたと考えられています。当初は、ヤマト王権の朝廷で政治的地位を有していた氏族（ウジ）に対し、その地位や職務に基づいてカバネが与えられました。カバネを冠する氏族の起源も不明瞭な点が多く、明確な記録が残されているのは、応神天皇以降の時代からである『日本書紀』『古事記』などです。

考古学的史料からは、6世紀初頭には既に氏族とカバネが存在していた可能性が示唆されています。例えば、隅田八幡神社人物画像鏡には「開中費直」と記されており、「河内直」であるとする見解があります。この鏡の癸未年という年号が503年であるとすれば、6世紀初頭には「河内」という氏族が存在し、「直（アタヒ）」というカバネが使用されていたと推測できます。

古代日本の氏族は、原始社会に見られる氏族とは異なり、王権との緊密な関係を持つ政治的集団でした。カバネは、ヤマト王権と諸氏族の政治的関係を示すものであり、王権の強化とともに、諸氏族への地位付与とカバネの付与が制度化されていったと推測されます。

カバネという言葉の語源も不明ですが、様々な説があります。「アガメナ（崇名）」、「カハラネ」、「カブネ（株根）」などといった言葉から派生したとする説や、朝鮮語の「骨（族の意味）」を日本語読みしたものとする説などです。しかし、「蘇我臣」「物部連」「河内直」といった氏名の下に付される称号であることは確実です。

古代のカバネの種類

古代には、臣（オミ）、君（キミ）、連（ムラジ）、直（アタヒ）、造（ミヤツコ）、首（オビト）など、およそ30種類のカバネが存在しました。氏族に与えられるカバネは、祖先の出自や官職によって決定されたと考えられています。

臣（オミ）: 畿内地方を中心に、地名を名とする氏族に多く見られ、天皇の后妃を出した氏族も多く存在します。
君（キミ）: 継体天皇の一族、遠隔地の半自立的な豪族、祭祀的な伝統を持つ氏族などに多く見られます。
連（ムラジ）: 職掌を氏名とするものが多く、元来は部民の長として天皇に奉仕していた人々のカバネと考えられます。
造（ミヤツコ）: 職業部、伴造（名代子代）の首長のカバネであり、地方に居住し部民を統括する長や、中央の官司に隷属する部民の長に多く見られます。
直（アタヒ）: 地方の長官としての役割を示すカバネであり、国造のカバネによく見られます。
首（オビト）: 伴部の地方有力者、渡来人系氏族、屯倉の管理者などに多く見られます。

これらのカバネは、部民制の発達と密接な関係を持って発展したものと考えられています。

八色の姓

684年（天武13年）、八色の姓（やくさのかばね）が制定されました。これは、真人、朝臣、宿禰、忌寸、道師、臣、連、稲置の8種類のカバネに整理したものです。これは、奈良時代から平安時代にかけて、上位の冠位を得ることができる氏族と下級の氏族を分けるものとして扱われました。上位のカバネを求めて改姓が繰り返されるようになりましたが、最終的には朝臣・宿禰以外は賜姓の対象とならなくなり、実質的な意味合いを失っていきました。

カバネの形骸化と廃止

中世以降、律令体制の崩壊とともに氏族は形骸化していき、名[[字]]が普及しました。名[[字]]は、当初は個人レベルで設定されていましたが、次第に一族間で継承されるものとして固定化していきました。

明治維新後、日本の人名に関する規定が整理される過程で、1871年（明治4年）の姓尸不称令によって、公文書においてカバネを表記しないことが定められました。これにより、カバネは完全に廃止されました。

研究史

カバネに関する研究は、江戸時代後期から始まり、近代歴史学においても多くの研究がなされてきました。本居宣長、太田亮、阿部武彦らによる研究が特に重要です。近年では、稲荷山古墳出土鉄剣銘の発見も、カバネ研究に新たな知見を提供しています。

まとめ

カバネは、古代日本の社会構造や政治制度を理解する上で欠かせない要素です。その歴史、制度、種類、そして廃止に至るまでの過程をたどることで、古代日本の政治と社会の変遷をより深く理解することができます。

もう一度検索